2012 Fiscal Year Research-status Report
財務報告における環境負債情報の開示を規定する要因の研究
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23653116
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
野田 昭宏 東京都市大学, 環境情報学部, 講師 (40350235)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
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Keywords | 環境負債 / 会計報告 / 企業ガバナンス / 環境会計 / 情報開示 |
Research Abstract |
本研究は,財務報告における環境負債開示の水準に影響を及ぼす要因を解明し,環境負債にかかわる財務報告制度の設計に資する知見を提供することを目的とする。 平成24年度は,特定した潜在的な環境浄化負債をもつ企業の財務報告における環境情報の開示水準を定量化する手法を開発し,調査対象企業の開示実態に関する分析を実施することを計画した。具体的には,1. 開示状況を量的に把握するための統合指標を作成する,2. 調査対象企業の有価証券報告書に含まれる環境負債関連情報(定性情報・定量情報)の内容と当該記載箇所を抽出する,3. 統合指標にもとづいた定量化作業を実施する,という構成である。 第1及び第3の達成目標である環境負債の開示水準の指標作成と定量化作業については,日本基準における財務諸表上の環境関連項目規定の検討を行った結果,環境負債として明確に関連付けられる項目規定が,米国基準に比べて明確でないため,財務諸表上から複数の環境に関連する会計情報を特定し,統合指標化するのが著しく難しいことが明らかになった。この点を考慮し,現行会計基準において,土壌汚染やアスベスト被害など環境汚染に関わりをもつ企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」に着眼し,資産除去債務の認識計上をもって環境負債開示の水準を離散変量として代理させることとした。 第2の達成目標である環境負債関連情報の抽出は,企業会計基準第18号の初年度適用によって報告された資産除去債務及び特別損失を用いることとし,平成23年3月期有価証券報告書から当該データを収集した。作成したデータベースにもとづき資産除去債務の開示実態を分析したのに加え,同基準の導入が会計情報の証券市場における価値関連性に及ぼした影響を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に,資産除去債務の認識にもとづいて環境負債開示水準を示すデータ収集を完了させた点が根拠として挙げられる。平成24年度目標のうち,最も達成が難しい点は,環境汚染に関連する財務会計情報の開示水準のデータを作成する点であった。米国基準と異なり,環境負債に関する個別的開示規定が明確でない日本において開示水準を変量化する作業は実質的に困難であり,これに代替する変数として資産除去債務の認識計上として用いることで解決したのは,本研究最終年度において収益性変数との関連性を明らかにする解析を容易にする点で,本研究のフィーザビリティを著しく向上させるものであった。 第2に,資産除去債務に関する会計基準の初年度適用実態を解明し,資産除去債務と適用影響額の計上および規模に,業種間差異を発見した点が挙げられる。汚染浄化負債の開示が,環境と経済の両立に関する事業特性に依存することを傍証するものであるとともに,環境負債開示の記述モデル構築に有用であったと考えられる。 第3として,本研究が当初の計画より進捗したために,最終年度をまたず,平成24年内に成果発信を実施した(国外報告5件,国内報告5件)ことによって,有益なコメントが得られたため,本研究のモデル修正を最終年度に反映させることが可能になったことが挙げられる。したがって,本研究は所期の目標達成について順調に推移しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年は,前2年の研究から得られた調査仮説とデータにもとづいて,日本における環境浄化負債開示実態が,環境と経済の両立に関する事業特性に依存しているか明らかにするとともに,企業の財務報告を通じた汚染浄化負債情報の開示を規定する要因の定量分析を実施する。さらにこれらの研究成果をとりまとめ,国内外における学会報告とワークショップを通じて研究成果を発信する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は多少の残額を残したものの,ほぼ全額通り執行することができた。次年度も計画通りの執行を予定している。
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Research Products
(15 results)