2012 Fiscal Year Annual Research Report
地域資源としての伝統的地域劇場:東北地方の事例から
Project/Area Number |
23653120
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小野澤 章子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (30291850)
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Keywords | 芝居小屋 |
Research Abstract |
本研究では、明治初頭から昭和初期に日本各地に設置され、その当初の目的が芝居(演劇)上演のための劇場を「芝居小屋」と定義し、特に社会的な視点から考察し以下の様な結果を得た。 日本各地に20館ほど現存する芝居小屋には、国の重要文化財の5館も含まれ(康楽館、旧広瀬座、呉服座、八千代座、金丸座)、また全国の芝居小屋が連携しその資源としての価値を再評価する動きなども高まっている。例えば、鉱山の厚生施設として設置された秋田県小坂町の康楽館(明治43年落成)は、鉱山の衰退とともに廃れ、一時期はほとんど使用されない状況であったものの、住民の保存運動によって修復オープンした昭和61年以降は、常設公演などを積極的に行い、重要な観光資源として利用されている。 また、このような芝居小屋は明治後半から大正期には全国に数千あったとも指摘されているが、ほとんどが社会の変化、人々の変化のなかで廃館している。衰退の背景としては、当初の主要なコンテンツであった歌舞伎の衰退、西洋式劇場・西洋芸術(写実的演劇など)の浸透、第二次世界大戦の影響、戦後の娯楽嗜好の変化(テレビの普及)などが指摘できる。 現在芝居小屋が存在しない岩手県盛岡市においても、明治初頭にすでに芝居小屋があったことが記録に残り、また最盛期には3つの芝居小屋が存在したことが資料から判明した。その内2館は映画館に転向後に廃館し、残る1館も15年にわたる廃屋状態の期間を経て取り壊されている。最盛期(明治後半から大正期)における盛岡の状況について、中央(東京)で発行された演劇雑誌の記事をてがかりに分析すると、芝居小屋が情報の発信源となって新しい観客を引き寄せ重要な文化的体験の場となっていたことが明らかになった。人々の嗜好の変化、都市の発展や経済状況の変化のなかで衰退していった芝居小屋だが、その後の盛岡における文化活動の基盤となっていたことが指摘できる。
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