2011 Fiscal Year Research-status Report
在宅医療文化のビデオエスノグラフィー-生活と医療の相互浸透関係の探求
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23653125
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
樫田 美雄 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (10282295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若林 英樹 岐阜大学, 医学部, 助教 (00378217)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会話分析 / 在宅医療 / 文化社会学 / コミュニケーション / エスノメソドロジー / もてなしとしてのリハビリ / 調整者としての療養者 / 在宅療養文化 |
Research Abstract |
初年度は、調査準備に注力する予定であったが、準備が順調に進んだため、本格的調査のほぼ半数量のビデオ撮影を伴う調査を初年度内に行うことができた(ビデオ撮影総時間にして、約12時間。のべビデオ送料は、約30時間)。また、進行が順調であったため、ビデオ撮影を伴わない見学についても、総合計で5日間にわたって行うことができた。 これらのデータに関して、研究分担者である若林英樹氏以外に、研究協力者の堀田裕子氏と繰り返し検討会を行った。(調査地秘匿のため、全ての情報は掲載できないが、http://web.ias.tokushima-u.ac.jp/social/kasida/2011houga/event-top.html、において主要な研究会履歴を記した)。研究会では、川島理恵氏(東京医科大学)、ほかのコメントを得た。 業績としては、報告書1冊を刊行し、査読論文1本を雑誌掲載した。また、口頭報告については、岐阜大学MEDC(医学教育開発研究センター)主催の第42回 医学教育セミナーとワークショップ(千葉大)などで、成果に基づく講演等を行った。 研究上の進展としては、つぎの2つの仮説を中心に、成果を得つつある。第一に、在宅療養の現場である「療養者の自宅」においては、医療専門職は、訪問客としての扱いを受けることができ、そのような場合の「(療養者)ホスト/ホステス-対-訪問者(医療専門職)」関係(カテゴリー対)は、療養者の社会的立場を強めている可能性があった。また、じっさいに、そのような観点からみた場合、療養者のリハビリ実践すら、訪問者に対するもてなし(接待)としてなされている可能性が見て取れた。第二の仮説としては、ALS患者のように、多数の専門職がチームを組んでサポートに入っている場合、専門職間の葛藤に対し、療養者が、専門家チームの調整者として、自らの主導性を確保している可能性があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の業績として、報告書1本、査読論文が1本でているほか、大変魅力的な仮説に出会えている点で、当初計画以上に研究は進展しているといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
在宅療養者の生活文化研究は、社会学に対してだけインパクトがあるものではなく、医学・看護学・生活科学などの関連諸領域に対してもインパクトがあるものになる、可能性に満ちた研究領域である。そのため、この研究領域での研究を進めるに当たっては、社会学の術語に通暁していない、関連諸領域の専門家たちにも、理解可能で、コメント可能なものに、研究発表をしていく努力が必要である。 この観点から、我々は、ビデオを用いた、リアリティにあふれたプレゼンを行う計画で準備を進めてきたが、どのようなビデオの呈示の仕方が、関連諸領域の専門家にわかりやすいものなのか、十分に知る機会がこれまではなかった。そういう問題意識でいたところ、在宅医療の研修に積極的なX病院の、研修医募集企画とタイアップして「在宅医療を学べることを売りとした研修医募集用ビデオクリップの作成」を「研究発表用ビデオクリップの作成」と並行して作成する企画がまとまり、2012年度に実施できることとなった。2011年度の撮影計画の一部を、この合同ビデオクリップ作成企画に合う形になるよう2012年に延期しているが、2012年度の前半には、諸準備が整い、取材費およびデータ整理費の執行ができるようになる見込みである。我々が発見しようとしている在宅療養者の生活文化は、研修医にも魅力的な在宅療養者の生活文化であるといえよう。したがって、この合同ビデオクリップ作成企画は、研究と実践の新たな連携のひとつの形として、モデル呈示的意味も帯びたものになることだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
在宅療養者の生活文化は、多様なので、ビデオ撮影されるべき対象は無尽蔵である。その全ての側面の撮影はできないまでも、施設内や病院内よりも多様である、という主張のためには、さらに10時間程度のビデオ撮影が必要となるだろう。この追加取材に関して、旅費・消耗品費が必要になる。 また、動画は、単位時間に含まれている情報量が膨大なので、データをみるための、丁寧なガイド呈示なしには、学会発表をしても、聴衆に内容を理解してもらうことができない。したがって、音声をテロップ化するための文字おこし(トランスクリプト化)や、複数カメラの同時に撮影された動画を、同期しながら呈示するための、編集作業(ビデオ編集)などに、十分な技術を持った技術者の長時間の雇用が必要である。この分析補助にかかわって、謝金・消耗品・その他経費が必要となる。 また、近年の医療社会学・福祉社会学の発展は早く、その動向を効率良く理解するためには、定期的な学会参加は欠かすことができない。また、自らの発表のためにも、学会に行く必要がある(保健医療社会学会・質的心理学会等の複数の関連学会への参加を予定している)。これらの目的のための、学会参加費・旅費等が必要である。 共同研究者(分担研究者および研究協力者)とは、昨年は、隔月に1回ペースで、読書会形式の研究会を開催したが、対面しての研究会での、思考の発展は、原稿を書く際にも欠かすことができない。また、ビデオを用いた対面研究会も数回は必要である。これらのための旅費・会場費・図書費の支出が必要である。なお、平成23年度から繰り越した82,446円については、収集したコピーをまとめるための製本用具費等(物品費)や、データ整理のための費用(謝金)、最新のエスノメソドロジーの研究状況を知るための研究会参加費用(旅費)などに用いる予定である。
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