2012 Fiscal Year Research-status Report
在宅医療文化のビデオエスノグラフィー-生活と医療の相互浸透関係の探求
Project/Area Number |
23653125
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
樫田 美雄 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (10282295)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若林 英樹 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (00378217)
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Keywords | 在宅医療 / ALS患者 / 脊椎損傷者 / 生活の医療化 / 医療の生活化 / ビデオエスノグラフィー / エスノメソドロジー / 会話分析 |
Research Abstract |
今年度は実際的調査の年度であり、まずは,前年度同様に訪問診療に同行して撮影することを夏に2回,秋から冬にかけて2回実施した.現在分析中である.また,本年はアドバンスト調査として、当事者および当事者家族の同意の下、訪問診療外時間においてどのような「在宅療養者」の生活が実践されているのか、通い合宿的連続訪問の中でのビデオ撮影をも行った。ねらいは「“医療の生活化”とそれを支える総合的な生活の秩序の発見」であった。具体的には,継続訪問中のALS患者の方(胃瘻栄養,人工呼吸器)のご自宅に3日間連続して訪問し,複数台のビデオカメラによる長時間の多面的観察を行った. 結果は,予想と異なり,発見されたのは,在宅での“医療の生活化”というよりは,“生活の医療化”そのものが,クライエントの療養生活を作りあげている実態であった.クライエントは,1日に家族を含めて10人近くの援助者から数十回の吸引を受けていたが,その吸引者の技能の善し悪しを,総合的に批評する「論評生活」によって,生活を彩っていた.在宅療養者にとっては,自らの体に対する医療的接触そのものが,生活の主要な環境であり,言及の対象なのだった.また,人工呼吸器の交換後,アラームが深夜に鳴り始めた事態に関しても,もっともラディカルで合理的な推論の実践者として,療養当事者が妻や医療機器メーカーのサービスパーソンに対して対峙していた.もちろん,訪問介護者や訪問看護者に合わせてCDの曲を選ぶなどの「生活らしさ」も存在していたが,それはむしろ従の位置を占めるものだった. なお,学会発表としては,日本質的心理学会において樫田がシンポジウムを企画し,研究協力者の堀田裕子が発表を行った.また,論文は,方法論に集中したものが『質的心理学フォーラム』に投稿され,掲載された.ビデオエスノグラフィーの方法に関しては,『質的心理学研究法セミナー』において講習を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「在宅的医療文化」の生成の様子は,かなりの程度明らかになってきた.たしかに,その生成メカニズムは,上述のように予想に反していたが,つまり,医療的なものを「生活」の方向に一方的に引き込むような形の生成メカニズムではなかったが,むしろ,この「見込み違い」にこそ,発見的価値があったといえよう. 少なくとも,医療的観点,治療的に有益か否かという病院の世紀的観点(猪狩2010)とはまったく異なる観点からの,在宅療養分析という方向に,今後の在宅医療研究の重要な展望がある,ということだけは,すでに示し得ているといえるはずだ. 今後は,在宅と言っても,病気ごと,療養環境ごとにいろいろと違う,という安易な結論にならないように気をつけながら,けれども,より多くの疾病やより多くの在宅療養環境に「ビデオエスノグラフィーの方法」を適用しながら,在宅療養が在宅療養となっていくプロセスをより詳細に確認していきたい.その展望から見れば,我々は,まだ道は半ばともいうべきかもしれないが,目標に向かっていることは明らかでその道のりは順調であるといえよう.
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Strategy for Future Research Activity |
研究分担者の若林氏に2013年度に使用する予定の研究費が生じたのは,所属先(岐阜大学)の職位が,2012年度に助教から非常勤講師に変更となり,新規に常勤先となった,訪問診療専業クリニックにおいては,勤務の状況から,研究会および学会出張計画のいくつかを変更しなければならなくなったからである.けれども,新常勤先のクリニックこそは,中部地区有数の規模をもった在宅医療対応に特化した専業クリニックであり,新年度には,新たに得られた人脈や知識をも総合的に活用して,もともと設定していた水準の研究会成果発表および国内外の学会誌への投稿をなしとげることができると思われる.したがって,経費は繰り越しをしている. なお,初年度から,研究協力者として,我々のチームの一員として,調査に同行している堀田裕子氏は,2013年4月より愛知学泉大学現代マネジメント学部の専任講師としてフルタイム研究者になったので,2013年度途中に申請して,共同研究者になってもらい,さらなる研究の推進を図りたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず,昨年度までの調査のテープ起こし残りがあるので,そのテープ起こしを進めたい.さらに,訪問診療に同行するだけでなく,長時間,在宅療養者と一緒に現場に滞在することの価値がわかったので,そのような形での調査を計画している.具体的には,2013年9月に岐阜での,3泊4日の夏合宿を予定している.このために旅費や物品費(故障したビデオカメラの補充や増えたデータの保存用のハードディスクやブルーレイ等)が必要である. また,学会発表としては,質的心理学会大会(at立命館大学)でのポスター発表と日本社会学会(at慶応大学)での口頭発表を計画している.これらに旅費が必要である. さらに,投稿先として,『プライマリーケア連合学会機関誌』『社会学評論』『医学教育』と適当な欧文誌(たとえば『International Journal of Japanese Sociology』)を検討中であり,これらの投稿論文のデータ加工補助者への謝金や英文要旨のネイティブチェック料が必要である.研究費は,これらの用途にあてる.
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Research Products
(9 results)