2011 Fiscal Year Research-status Report
在宅における医療的ケアの実践と論理: エスノメソドロジー・会話分析の視点から
Project/Area Number |
23653133
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
水川 喜文 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (20299738)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 医療的ケア / 障害者自立生活 / エスノメソドロジー / 会話分析 |
Research Abstract |
本研究は、障害当事者が設立したNPO・自立生活センターなどにおいて実践されている、在宅における介助者等による人工呼吸器装着者へのたんの吸引などの「医療的ケア」に対して、エスノメソドロジーの視点を用いたビデオ録画を併用したエスノグラフィー、当事者・介助者へのインタビューなどを行うことにより、生活支援行為としての医療的ケアの「実践の論理」を明らかにすることを目的としている。これにより、医療、法、教育といった制度/システムの側からの「医療的ケア」ではなく、当事者や介助者の視点により培われてきた「医療的ケア」の実践的な知識や論理といったものを明らかにすることを目的としている。 本研究の初年度は、障害当事者が設立したNPOや自立生活センターによって事実上、行われている、在宅における障害者の「医療的ケア」に関して、具体的にどのような活動が行われているか、そしてその実践における知識と論理を明らかにするためにさまさまな方法でフィールドワーク等の調査を行った。具体的には、実際に行われている医療的ケアのビデオ撮影、さまざまな現場のフィールドワークとエスノグラフィー、当事者、家族へのインタビューなどをエスノメソドロジー・会話分析の視点から考察した。これらの(質的)調査によって、当事者によって様々に培われた医療的ケアに関する様々な技術やそれを支える知識が明らかになることによって、医療的ケアの生活支援行為としてどのように位置づけることができるか示すことができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の概要にあるとおり、本研究はフィールドワークやインタビューに加え、ビデオデータを用いたエスノメソドロジー的会話分析を用いて、生活支援行為としての医療的ケアの「実践の論理」を明らかにすることを目的とし、当事者や介助者の視点により培われてきた「医療的ケア」の実践的な知識や論理といったものを明らかにすることを目的としている。 本研究の初年度は、札幌にあり研究代表者が理事として参加するNPOなど札幌にある複数の団体の調査を中心にフィールドワーク・ビデオ撮影・インタビューなどによる研究を進めてきた。各団体共に、障害当事者が運営者としており、医療的ケアを介助者が在宅を基本に実質的に行ってきた団体である。これらのNPOの中には、重度重複障害児に対する医療的ケアを含めた介助を行っている団体も、ベンチレーター(人工呼吸器)装着者へ医療的ケアを行っている団体もある。この他に札幌以外を所在地とする北海道内で特徴的な活動・実践をしている団体についても、ビデオ撮影などの調査を行った。また、全国的に活動している団体についても医療的ケアの実際を調査すると共に、代表者や医療的ケアの実施者へのインタビューを行った。本年度は、これらの調査とともに、これらの資料やデータをもとにして札幌市内における各団体の運営者、実施者、特別支援学校教諭などと共同研究する準備を整えた。これらの調査には被調査者の生活そのものに関わる必要があるために、個人情報やプライバシーの問題が深く関わっている。そのため調査の実施には困難な側面もあったが、調査の許可を書面で取るなどの配慮を行い、また、フィールドワークの際のフィールドノーツや撮影・録音の際のデータの取扱には十分注意してデータの保管・分析を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まず、平成23年度に得られたビデオやインタビューのデータ、資料を元にエスノメソドロジーと会話分析の発想に基づいて分析を進めていきたい。また、同時に昨年度に引き続いてビデオデータを中心にデータ集積を行なって行きたいと考えている。これには、フィンランドに在住する障害者インターナショナル(DPI)の元議長カッレ・キョンキョラ氏へのインタビューなどの調査も含まれる。 第一に、ビデオやインタビューに調査のデータについては、トランスクリプト(会話や動作の逐語記録)を作成した上で、エスノメソドロジー的会話分析の手法を用いて分析を行いたい。その際には、研究代表者が行った「身体障害者介助の実践学:障害者自立生活カテゴリーと介助シークエンス-」(水川喜文、2007『社会学の饗宴:理性と感性』山岸健(編)三和書籍, pp.351-375)などにおける障害者自立生活における相互行為研究の成果などを用いて、 第二に、昨年度からの継続的なフィールドワークとビデオ撮影については、札幌市内外での当事者団体の協力のもと特にビデオデータの蓄積に努めたいと考えている。その際には、代表者が理事として参加している札幌市のNPOやベンチレータ使用者を中心とした団体など札幌のNPOの調査と共に、北見市のNPOなどにもフィールドワーク・ビデオ撮影・インタビューなどによる調査研究の協力を引き続きお願いしたいと考えている。また、障害者インターナショナル(DPI)の元議長キョンキョラ氏へのインタビューなどの調査についても実施したいと考えている。上記の札幌市にあるNPOを中心に来日が計画されており、その際に、医療的ケアの国際比較として調査を実施したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究費の使用計画としては、次のとおりである。まず、調査としてフィールドワークやビデオ撮影のための出張旅費や機材など、次に、その調査の結果である、ビデオデータなどのデータ整理の研究補助、さらに、研究成果を発表したり情報交換をする出張費などを中心に考えている。 第一に、昨年度からの継続的なフィールドワークとビデオ撮影については、札幌市内外での当事者団体の協力のもと特にビデオデータの蓄積を行うため、出張旅費、さまざまな機材の費用(データ蓄積のためのハードディスク含む)が必要となる。昨年度は札幌市内を中心にフィールド調査を行ったが、当年度は北海道内の札幌市以外で活動している団体にも現地に滞在して調査を行いたいと考えている。 第二に、上記の調査の結果である、さまざまなデータの蓄積と整理のための研究補助(謝金)である。特に、ビデオデータを会話分析などで分析する際には、トランスクリプト(ビデオテープに録画された会話や動作の文字起こし)にする必要がある。これには相当の時間がかかる。そのため、個人情報やプライバシーに十分配慮して研究補助によりトランスクリプトの作成を行う。もちろん、研究補助によるトランスクリプトは研究素材として十分ではないので、研究者によって精査して実際の分析を行う。 第三に、研究成果の発表や研究上の情報交換としては、日本社会学会などの学会への参加や研究発表、関連するエスノメソドロジーの方法論を含む研究会への参加などを行って成果を出していきたいと考えている。
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