2012 Fiscal Year Research-status Report
在宅における医療的ケアの実践と論理: エスノメソドロジー・会話分析の視点から
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23653133
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
水川 喜文 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (20299738)
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Keywords | エスノメソドロジー / 会話分析 / 障害学 |
Research Abstract |
本研究では、従来は医療行為として行われてきた人工呼吸器等を伴うケアを、生活支援行為としての医療的ケア(介助)と捉え直し、そこにおける「実践の論理」を明らかにすることを目的とする。これにより、医療、法、教育といった制度/システムの側からの「医療的ケア」ではなく、当事者や介助者の視点により培われてきた「医療的ケア」の実践的な知識や論理といったものを明らかにすることを目的としている。 札幌市内の当事者団体やNPOを中心に調査研究を行い、日本社会学会などで研究発表を行う準備を行った。調査研究に関しては、在宅における介助者等による人工呼吸器(ベンチレーター)装着者へのたんの吸引などの「医療的ケア」に対して、エスノメソドロジーの視点を用いたビデオ録画を併用したエスノグラフィー、インタビューなどを行った。特に当該年度では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の当事者および当事者団体へのインタビュー及びビデオ撮影を行った。これらのビデオ撮影、インタビューの際には、研究の対象者へ十分な説明を行った上で、書面による研究承諾書を得た。また、日々の医療的ケアを行う介助者についても同様に承諾書を得た上で、インタビューや介助の撮影などを行った。 この過程で、特にALSの人に対する生活支援行為としての医療的ケアを基礎づける、コミュニケーションの重要性に気付かされることとなった。人工呼吸器を装着する際の大きな問題の一つは、その疾病の段階における筋力低下により声でのコミュニケーションが困難になることである。それを補うための様々なコミュニケーション技法についての実践を今回の研究では明らかにできる可能性が生まれた。これらに関しては、各種研究会におけるデータセッションで検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要でふれたとおり、在宅における介助者等による人工呼吸器(ベンチレーター)装着者へのたんの吸引などの「医療的ケア」に対して、エスノメソドロジーの視点を用いたビデオ録画を併用したエスノグラフィー、インタビューなどを行った。また、その際に、ALS独自の困難、すなわち、介助者とのコミュニケーションの困難を補う実践に関しての調査も行った。 その一つの方法は、「口文字盤」と呼ばれる透明文字盤から派生した、コミュニケーション技術を使って、介助者を介して会話のやり取りである。このコミュニケーション技術に関して、ビデオデータを得ることができた。もう一つの方法は、Aさんが導入したアイトラッキング技術を使ったパソコン操作によるコミュニケーション技術である。このマイトビーをAさんが導入した理由は、現時点で、パソコン操作が自力で操作ができないということと、将来的に、病状が進行した際に、眼球運動のみでパソコンを操作できることを想定してのことである。 これらに関しては、いくつかの研究会で発表を行いながら成果を準備した。例えば、ロレンザ・モンダダ・ワークショップ(明治学院大学)でのデータセッション、国立国語研究所共同研究プロジェクト(領域指定型)の公開研究会において、「医療的ケアを受ける在宅ALS者の「口文字盤」によるコミュニケーション」として発表を行った。一方で、フィンランド在住の元DPI議長については、来日が未定となったこともあり調査することはできなかった。今回の研究では、決定された予算の関係もあり、国際動向については文献等を中心に考察し、国内の医療的ケアに関する研究を主軸として進めたい。その中で、医療的ケアとそれに関わる諸問題、たとえば、医療的ケアを基礎づけるコミュニケーション技術、そしてその実践についての研究に対象を広げることで補うことができればと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方策としては、前年度までの調査研究をもとにして、医療的ケアおよび医療的ケアに伴うコミュニケーションの問題に関するビデオデータの分析及び研究成果の発表を行なって行きたい。 まず、前年度からの継続で、在宅における介助者等による人工呼吸器(ベンチレーター)装着者へのたんの吸引などの「医療的ケア」に対して、エスノメソドロジーの視点を用いたビデオ録画を併用したエスノグラフィー、インタビューなどの調査をすすめる。特に、これまで調査をさせていただいたALSの人に対して継続的に関わりを持ちながら、インタビューやビデオ撮影の調査を行いたい。その際には、医療的ケアの前提となるコミュニケーションの技術について、特に「口文字盤」コミュニケーションとアイトラッキング技術によるPC操作とそれを伴ったコミュニケーションについての調査を中心を行う。 本年度は、これら調査及びデータ収集にともなって、データを分析・検討し、成果発表を行う。前年度に行った、各種研究会でのデータセッションや学会発表による検討を踏まえて、学会での発表、論文による成果発表を行いたい。具体的には、学会発表としては、日本社会学会および関連学会を中心に行い、国際学会に関しては、今年度は発表に備えた分析と検討をすすめたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、次年度においても医療的ケアおよび医療的ケアに伴うコミュニケーションの問題に関する調査及びデータ収集、データの分析・検討、成果発表を行うための研究費を使用する。データの収集、分析・検討に関しては、現存のビデオデータ処理のための機材(パソコンなど)の安定的な使用とさらなる効率化のため機材の一部を刷新する。これに際して、ビデオデータの取り扱い(分析やデータの保存)のためのパソコンの関連機材やソフトウェアにも研究費を使用する。 また、ビデオデータの分析のための書き起こしをするためトランスクリプト費用を謝金等として使用する。調査の準備として、資料や関連書籍(医療的ケア関係、ALSに関連する資料・書籍、エスノメソドロジーや社会学の方法論に関係するものなど)の購入を予定している。 研究の成果発表に関しては、前年度の各種研究会でのデータセッションなど検討をもとに、日本社会学会等の学会や研究会での発表を行うため国内旅費として研究費を使用する。国際学会に関しては、次年度以降の発表に備えた分析と検討をすすめる準備を行う。その他、関連する連絡のための通信費などを研究費として使用する。
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