2011 Fiscal Year Research-status Report
人付き合いを好まない高齢者のQOLを向上させるための相互連携・階層モデル
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23653148
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
長谷川 芳典 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (80183086)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高齢者 / QOL / 行動的QOL / 人づきあい / 生きがい / 死生観 / 行動分析学 / ダイバージョナルセラピー |
Research Abstract |
高齢者施設(大阪府、香川県、熊本県等)に出張し、種々のイベントへの利用者の参加状況、利用環境等を調査した。対象施設は、デイケアサービスセンター、介護老人保健施設、認知症治療病棟等であり、それぞれの施設の特性やスタッフの関わり方の違いを記録した。またスタッフの目からみて「人付き合いを好まない」とされている入居者をご紹介いただき、了解をとった上で面接調査を行った。調査にあたりICレコーダーを使用した。デイケアサービスセンターでは、シニア向け玩具(羽目板パズル、ブロックパズル、ノートパソコンを利用したゲーム)を1カ月間留置させてもらい、利用状況(利用人数および特定個人内で利用の変遷)を記録した。このほか、了解を得た上で、デジタルカメラ動画撮影による記録を行った。収集したデータは、大学院生を雇用し、ノートパソコン(ソフトウェアを含む)によりKJ法などの手法により分析し、2011年度の日本質的心理学会で発表のほか、現在、いくつかの論文にまとめる作業を行っている。 これとは別に、高齢者ケア(ダイバージョナルセラピー)の研修セミナー等に参加した高齢者施設スタッフ(看護師、介護福祉士など)に、会場で個別に面談を行い、人付き合いを好まない高齢者への対応状況を調査した。 高齢者のQOL向上や行動マネジメント、死生観等に関する行動分析学、福祉心理学、社会学などの書籍を購入し、論文執筆に活用している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究申請後に、研究室を含む建物の耐震改修工事が正式決定し、年度内に半年に及ぶ一時避難と、2度にわたる移転作業を余儀なくされた。このため、当初予定していた出張調査の回数を減らさざるを得ず、初年度の当初配分額の3分の2しか執行できなかったという遅れを生じた。しかし、可能な限り調査を遂行し、分析の終了した部分から学会発表を行い、また、関連書籍を購入した上で総説論文を執筆(刊行は2012年度7月)するなどの成果を上げることができ、総合的に見ればおおむね順調に進展していると評価してよろしいのではないかと考えている。 より詳細にみると、高齢者施設の環境調査、入居者の全体的な生活状況については十分な資料を得ることができた。その結果、人付き合いを好む好まないに関わらず、利用者の多くがかなりの時間を無為に過ごしている実態が確認できた。また施設スタッフへの聞き取りも順調に行われた。多種多様なイベントを実行している施設が多かったものの、人的資源の乏しさもあって、イベント不参加者に対する個別のプログラムはなかなか実現できない現状であった。 いっぽう、人付き合いを好まない高齢者への縦断的調査については、調査回数、対象人数とも十分とは言えず、次年度での取り組みを強化する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度においても引き続き、高齢者施設(デイケアサービスセンター、介護老人保健施設、認知症治療病棟等)を対象とする。利用者各位の全般的な生活行動調査のほか、同一人の一日の諸行動のバランスや中期的な変化について重点的にデータ収集を行いたいと考えている。また、個々の行動を別々に記録するのではなく、どのように連携して生じ、どのように階層化しているのかを明らかにしていく。 なお、本研究のテーマは、「人付き合いを好まない高齢者のQOL」としているが、これまでの調査により、人付き合いを好む好まないに関わらず、施設利用者の多くが一日のかなりの時間を無為に過ごしている実態が確認できた。また施設では、スタッフにより高齢者ケアのための各種イベントが企画実践されているが、スタッフの関心はどうしても参加者に向いてしまい、参加者の反応を肯定的に評価する傾向がある一方、不参加者に対しては十分な配慮がなされていない可能性がある。さらに、人的資源が不足していることにより、実際に行われるイベントの総時間はきわめて限られており、利用者は家族との面会や食事時間などを除いて、1日の大部分を一人で過ごさなければならないという現実もある。これらをふまえて、「人付き合いを好まない」方に限定せず、お一人で過ごす方々全般にQOLについて分析を行っていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の推進方策に基づいて、各種の高齢者施設での調査(観察、聞き取り等)、及び施設スタッフへの聞き取り調査を行うために、旅費を必要とする。調査およびデータの分析には、補助業務が必要であり、大学院生等を雇用する。そのための旅費及び謝金を必要とする。 2011年度内に行った研究成果の一部を日本質的心理学会年次大会で発表するため、旅費、参加費、発表資料作成費用が必要である。QOLに関する知見、および相互連携・階層モデル構成の参考とするために関連書籍を購入する。 データの記録、保存に必要な記憶媒体(SDカード、BDディスク)を、必要分購入する。
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