2011 Fiscal Year Research-status Report
手指の随意運動が困難な大学生に対する電子教科書リーダーの有効性に関する検討
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23653163
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
奥 英久 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (30248207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松原 加代子 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 講師 (20583488)
坊岡 正之 広島国際大学, 医療福祉学部, 教授 (90352012)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 障害学生支援 / 大学生 / 肢体不自由 / 電子教科書 |
Research Abstract |
国内大学の調査結果から、障害学生支援の主な対象が肢体不自由学生と感覚障害学生であること、肢体不自由学生のための教科書電子化については未対応であることが明らかとなった。一方、米国大学の調査結果から、ADA(Americans with Disabilities Acts:障害をもつアメリカ人法)制定以後、各大学にDSPS(Disabled Students Program Services)が設置され障害者支援の専門家をスタッフとした支援体制が構築されていること、その一環として教科書のCD化は行われているが主体は教科書内容の音声化で本研究が目指す電子書籍化は技術的には可能であるが実施されていないこと、が明らかとなった。 次に、電子教科書リーダー(読取装置)として、市販されている代表的な市販携帯情報端末であるiPad・Android・Kindleの利用可能性を検討した。この結果、日本語を扱えること、指で操作できること、研究期間での継続した供給が期待できることなどの点から、iPadを採用した。 次年度からの評価実験の被験者として、本学在学の肢体不自由学生(障害:脳性麻痺)の協力が得られ(本学倫理委員会承認済み)、次年度からの評価実験に先立つ予備実験として被験者が使用している一部教科書を電子化し、その操作性について検討した。この結果、iPadの電子書籍読み取りプログラムで基本的な操作が行えることを確認した。その一方で、印刷版の教科書では「頁番号」や「みだし」など位置が本文以外の余白部分にあるため、本文だけをリーダーの画面一杯に表示することが難しく、検討が必要であることが分かった。さらに、この予備実験から、画面に指を触れて操作する場合の特性を定量的に評価する必要があると考えられたため、このデータを取得するためのプログラムを試作し次年度の評価実験の中で検討することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外の大学における電子教科書の対応状況についての調査は、おおむね予定通りに実施し、教科書の電子化における現況を確認することができた。 iPad・Android・Kindleなど代表的な携帯情報端末については、調査の結果、現状ではiPadが本研究で使用するのに有効である、との結果を得た。しかし、iPadが画面サイズ9インチであるのに対して画面サイズ7インチのAndroidが市場に投入され始め、更に次年度には電子書籍リーダーとしては最大のシェアを有するKindleの日本語版が市場投入されることが確実視されているため、今後これら画面サイズ7インチの携帯情報端末の操作性などに関する検討が必要と考えられる。 教科書の電子化については被験者候補の障害大学生が実際に使用している教科書をサンプルとして電子書籍化を試みた結果、教科書では本文以外の余白部分に「頁番号」や「みだし」が印刷されれているため、これらを含めることにより本文の文字を最大には表示できないという問題のあることが明らかとなり、今後、種々の教科書の電子化を実施し比較検討する必要のあることが明らかとなった。 電子化した教科書の使用においては、次年度の実証実験に向けた予備実験において、被験者候補の肢体不自由大学生が使用可能であることを確認するとともに、物理的な操作性を評価するポインティング状況を検証するプログラムを試作した。 以上を総合的に判断すると、初年度の研究内容としては、予想通りに達成できた課題と新たに顕在化した課題が混在しているが、後者は当初の研究予定に大幅な変更を与えるものではなく、おおむね予定通り順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により、教科書の電子化が肢体不自由大学生の受講支援として新しい方法であることが確認された。このため、次の段階として、電子化された教科書の利用が肢体不自由大学生において実用レベルで可能であること、すなわち物理的にも精神的にも使用者に負担を与えない支援方法であることを検証する必要である。 物理的負担を与えるか否かについては、肢体不自由大学生が電子教科書リーダーである携帯情報端末を効果的に操作できるか否かを検証する必要がある。このため、操作時における手指の操作軌跡などを記録し評価するとともに、操作しやすい表示ソフトウエアについても検証する。 精神的な負担を与えるか否かについては、肢体不自由学生が電子教科書リーダーを操作する場合の精神的負荷を計測し評価する必要がある。このため、電子教科書を使用する被験者に対して、心理物理的側面から計測と評価を行う。 一方、利用しやすい電子教科書を実現するためには、電子教科書リーダーである携帯情報端末の画面一杯に教科書1頁の内容を余すことなく表示することが必要である。このためには、教科書電子化により文字の大きさを最大限に携帯情報端末で表示することが求められる。このためには、元の教科書の1頁における本文縦横比が電子教科書リーダーとして使用する携帯情報端末の画面縦横比と等しいことが必要条件と考えられる。そこで、現在の教科書における本文の縦横寸法比と、「頁番号」・「みだし」など本文以外の情報がどのように1頁の中に組み込まれているのかについて検証し、電子書籍化する場合の教科書の要件として、効果的な1頁の画面構成について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度では、被験者が受講で使用する教科書を電子化し、その使用状況を評価する。このため、被験者が使用する教科書を購入し電子化する。また教科書の電子化における本文と「頁番号」および「みだし」の配置について、他の教科書等を電子化して検討する。さらに、評価期間において一定のインターバルで被験者から操作性に関するデータを収集する。また画面サイズ7インチの携帯情報端末を利用した電子教科書リーダーについて、その操作性について検討する。以上を実施するため、次年度の研究費の使用を次のように計画している。(1)教科書等の購入費:被験者が評価のために使用する電子教科書を作成するため、従来の印刷された教科書を購入する。さらに、1頁における本文と「頁番号」および「みだし」などの位置関係を検証するため、他の教科書および参考書等を電子化のために購入する。(2)電子書籍作成に必要なイメージスキャナー購入費:文字がより鮮明に表示される電子教科書を作成するため、解像度の高いイメージスキャナを購入する。(3)被験者等への謝金:本研究で実施する評価実験に協力いただく被験者と、参照データを収集するため協力いただく健常大学生へ謝金を支払う。(4)評価プログラム修正費:昨年度において試作した電子教科書リーダー操作特性計測プログラムの修正をソフトハウスへ委託する。(5)携帯情報端末購入費:画面サイズ7インチの携帯情報端末について、電子教科書リーダーとしての利用可能性を検証するため購入する。(5)旅費:分担研究者との打ち合わせ及び関連学会等における情報収集のために出張する。(6)消耗品:研究で必要となる消耗品等を購入する。
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