2012 Fiscal Year Research-status Report
手指の随意運動が困難な大学生に対する電子教科書リーダーの有効性に関する検討
Project/Area Number |
23653163
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
奥 英久 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (30248207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松原 加代子 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 講師 (20583488)
坊岡 正之 広島国際大学, 医療福祉学部, 教授 (90352012)
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Keywords | 電子教科書 |
Research Abstract |
本年度は、障害学生1名を対象として、電子教科書の操作性と有効性に関する評価実験を実施した(本学倫理委員会承認済み)。まず被験者が使用する教科書をPDF化してiPad2にインストールし電子教科書を作成した。そして、紙教科書使用時と電子教科書使用時における被験者の身体的作業負担と精神的作業負担の違いを計測した(実験1)。さらに、iPad2より表示面積が小さく軽量なiPad-miniで電子教科書を作成し、両者における精神的な作業負担の違いを計測した(実験2)。各計測結果をNASA-TLXの手法で評価した。 紙教科書のPDF化では、タイトルや頁番号等の配置が一律ではないため、全て同一の仕様による処理が難しいことが明らかとなった。実験1の結果、被験者が持参する教科書の平均重量が0.25kg/日、最重量日には約1kg少なくなり、身体的作業負担が軽減された。また、NASA-TLXの評価から、電子教科書使用において精神的作業負担が軽減された。一方、実験2の結果から、電子教科書における表示面積の相違による精神的作業負担に大きな差違は認められなかった。 以上の結果から、紙教科書の取り扱いが困難な肢体不自由大学生において、電子教科書が紙教科書よりも身体的作業負担と精神的作業負担の両方を軽減できる可能性のあることが示された。また、表示面積が約9インチと約7インチの電子教科書リーダーを使用した結果、両者に操作上の差違は認められなかったため、より軽量なiPad-miniを電子教科書リーダーとして利用することにより、身体的作業負担を更に軽減できる可能性のあることが示された。 一方、表示画面の小さい電子教科書を長期間使用した場合の精神的作業負担の評価、表示画面のスクロール方向と操作性との関関係評価と、および被験者の電子教科書リーダー操作能力評価については、最終年度において検討することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の調査と予備実験に引き続く今年度は、紙教科書をPDF化する場合における全教科書に対する仕様統一の可能性検証と、手指の随意運動が困難な肢体不自由大学生における電子教科書使用の可能性検証、すなわち電子教科書の使用が身体的にも精神的にも従来の紙教科書使用よりも負担を与えないことを実験的に検証することを目的とした。さらに、表示面積がより小さく軽量な電子教科書リーダーの使用可能性についても実験的に検証することを目的とした。 今年度の研究では、まず紙教科書のPDF化においては、各教科書におけるタイトルや頁番号等の配置が一律ではないため、同一仕様による全対象教科書の処理が難しいことが明らかとなった。次に、電子教科書の取り扱いでは、被験者が通学で持参する平均教科書重量が1日あたり0.25kg、最重量日には約1kg少なくなり、身体的作業負担が軽減されたことが明らかとなった。また、NASA-TLXの評価から、紙教科書使用よりも電子教科書使用において精神的作業負担が軽減されたことが明らかとなった。そして、電子教科書における表示面積の相違による精神的作業負担においては、表示面積が大きい電子教科書と小さい電子教科書の両者において、差違は認められなかった。 以上の結果を総合的に判断すると、今年度の研究内容としては、最も重要である「電子教科書と紙教科書の作業負担の評価」を実施して結果を得ていること、および関連する課題についても概ねの結果を得ていることから、一部には最終年度に繰り越した内容をあるが、ほぼ当初の予定通りに達成されていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
3年にわたる本研究の1年目においては、一般的な紙教科書をPDF化して電子書籍として使用するが方式が、手指の随意運動が困難な肢体不自由大学生の受講支援として新しい提案であることが確認された。これを踏まえた2年目の研究においては、紙教科書をPDF化する方式による電子教科書作成での諸課題について検討するとともに、電子教科書を実際に取り扱い使用する場合における身体的作業負担と精神的作業負担の評価を行い、電子教科書が手指の随意運動が困難な肢体不自由大学生の代替教科書として使用できる可能性があることが確認された。 より実用的な電子教科書を実現するという観点からは、紙教科書と同様に「しおり」や「書き込み」などの付属機能が必要であるとともに、これらを円滑に操作できるか否かは使用者おける手指の随意運動機能に依存することから、電子教科書の内容を表示するソフトウエアと使用者の手指の随意運動機能の両面からの評価・検討が必要である。また、表示面積がより小さく軽量な電子教科書リーダーの使用可能性については2年度の研究により示されているが、短期間ではなく継続して長期に使用した場合の精神的作業負担についての評価・検討が必要である。 以上から、3年間にわたる本研究の最終年度においては、紙教科書をPDF化する方式による実用的な電子教科書を実現するために必要な機能を確認するとともに、実際的な使用における使用可能性について、更に実験的な検証を行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は本研究の最終年度として、有効性が明らかとなった電子教科書の実用性という観点から、表示面積が小さく軽量な携帯情報端末を利用した電子教科書を製作し、被験者が継続的に使用した場合の精神的負担の変化についての評価実験を実施する。さらに、昨年度までに試作した電子教科書リーダー操作性評価プログラムによる評価を実施する。これらに加え、これまでの2年間の研究で明らかとなった、手指の随意運動が困難な肢体不自由大学生の受講支援に電子教科書が有効であるという評価実験の結果を論文にまとめて発表し、関係者との意見交換を行う。これらの実施に要する予算を以下の通り計画している。 (1)教科書および形態情報端末の購入費:次年度の評価実験で使用する電子教科書を作成するために必要な紙教科書する。さらに、この紙教科書の内容をPDF化したファイルをインストールして電子教科書として使用するための、表示面積が小型で軽量な電子教科書リーダーを継続的に評価実験に使用する小型携帯情報端末を購入する。。 (2)被験者等への謝金:本研究で実施する評価実験に協力いただく被験者への謝金と、評価実験の補助等に協力いただく健常者へ謝金を支払う。 (3)評価プログラム修正費:昨年度まで試作した電子教科書リーダー操作特性計測プログラムを使用した実験に伴い発生する軽微なプログラム修正をソフトハウスへ委託する。 (4)旅費:これまでの研究成果を関連学会にて発表するために出張する。 (5)消耗品:研究で必要となる消耗品等を購入する。
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