2011 Fiscal Year Research-status Report
重症心身障害児の脳活動と自律神経系活動を応用したQOL評価の試み
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23653201
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
岩永 誠 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40203393)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 重症心身障害児 / 日常生活ケア / QOL / 脳血流量 / 心拍変動 / 交感神経系活動 / 副交感神経系活動 |
Research Abstract |
重症心身障害児(者)は中枢神経系の障害が原因で運動および知能に障害が生じている症候群である。身体が不自由であり脆弱であるため,医療的ケアはもとよりQOLを高めることが重要な課題となっている。しかし,言語や身体反応によって意思を表現できないために,介護やケアの適切性は介護者の主観的な判断にゆだねられている。そこで客観的な指標を用いて,重症心身障害児の介護におけるQOLを評価することが求められる。介護中の緊張やリラックスについては,自律神経系指標をもとに評価が可能である。しかしリラックス状態については副交感神経系の活動だけでは,脳活動水準の低下によっても引き起こされるため,脳血流を測定することで脳活動の機能評価も合わせて行う必要がある。 平成23年度は,予算執行上の問題があり,脳血流系の購入はできたものの測定ソフトの購入が遅くなったため,脳血流の測定を行うまでにはいたらず,自律神経系の測定のみとなっている。大島分類1の重症心身障害者4名(男性3名,女性1名;17~59歳)を対象に,ケアとして実施した洗面と更衣中の自律神経系活動の測定を行った。ケアの前・最中・後の3時相で心拍数(HR),交感神経系活動(LF/HF),副交感神経系活動(HF)の評価を行ったところ,洗面時は,ケア中に上昇し,ケア後は低下傾向にある。HFはケア中に低下し,LF/HFは上昇することから交感神経系優位の状態にあり,生理的に高覚醒状態になることが示された。更衣時のHFは上昇し,LF/HFが低下することから,副交感神経系優位の状態,つまりリラックスしていることがわかった。しかし,1名は更衣時に交感神経系活動が優位になっており,個人差のあることがわかった。この個人差は,ケアをしている介護者の介護の仕方の違いにより生じている可能性があり,ケアの方法についての行動評価とあわせた検討を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度の予算執行は,当初予定額の7割の金額の執行であった。光イメージング脳機能測定装置(竹井機器OEG-16)の金額は197万円であり,予算230万円の86%を占める。7割執行ということでは機器本体の購入も困難になったことから,他の予算と併せて購入することとした。しかし,測定・記録を行うためのソフトを購入することができず,実験を実施することができない状態が続いた。残り3割の予算が執行されたこと,および他の予算と併せてソフトを購入することができたことから,実験を実施することができるようになったが,あいにく冬になったために,測定予定者の健康のことを考えると測定することが難しくなった。そのため,脳血流量の測定を一時保留し,光イメージング脳機能測定装置のセンサーの装着に慣れてもらうための訓練を行っている段階である。対象者である重症心身障害児にとって,頭部を圧迫するセンサーの装着そのものが負荷となる可能性が高いため,装着になれてもらう必要があるからである。それ以前に,自律神経系についての測定は試行的に行っており,ケアの種類によって交感神経系-副交感神経系活動の活性状態が異なること,またケアをする人によっても活性状態が異なる可能性を明らかにしている。自律神経系活動に加え脳血流量を測定することでリラックス状態の評価を行うとともに,介護者のケアの仕方についての行動観察を行い,より適切なケアのあり方について検討していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,23年度に実施することができなかった脳血流量の測定を行い,自律神経系活動と組み合わせて評価することで,介護における負荷の程度を明らかにし,より適切なケアのあり方についての検討を行う。具体的には,以下の検討を行う予定である。 対象者として,大島分類の1~4に相当する重症心身障害児(者)10名程度を対象として用い,入所施設における日常生活ケアである,吸入,食事(経口摂取・経管摂取),清潔維持(歯磨き・ひげそり・洗顔),更衣の4種類を測定の対象とするが,その内容は対象児(者)により異なる。 測定指標は,中枢系の指標として前頭前野の脳血流量を,末梢系の指標として心電図を測定する。脳血流量はオキシヘモグロビン・デオキシヘモグロビン量を算出し,ケアを行っていないベース時から,各ケア時の変化量を算出する。心電図は,R-R間隔を測定し,それをもとに1分間あたりの拍動数(bpm)に変換し,ウェーブレット解析による周波数解析を行う。周波数解析により,高周波成分(HF)と低周波成分(LF)を抽出し,交感神経系指標(LF/HF)と副交感神経系指標(HF)の推移を検討する。さらに,行動観察として,ケアが行われている状態をビデオ録画し,ケアの内容と生理反応との対応関係が取れるようにし,介護者によるケア動作がどのような生理反応を引き起こすかについて検討する。また,対象者の反応から,快-不快の程度を評定用紙により測定し,生理反応との対応を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に,光イメージング脳機能測定装置(竹井機器OEG-16)の本体を本科学研究費により,測定・記録・分析ソフトを他の研究予算により購入することができたため,脳血流量を測定するための基本な準備は完了した。平成24年度は,当該ソフトをインストールし,施設で測定・記録を行うためのノートブック型パソコンとデータ保存・バックアップ用のハードディスクを購入する必要がある。さらに,自律神経系活動の指標である心電図を測定するための使い捨て電極を購入する必要がある。 データを測定するためには,重症心身障害者を対象にセンサー装着の馴化訓練を行い,その後に実験セッションを行う必要がある。また測定されたデータは行動観察のデータと同期させて解析を行う必要がある。そのためにかなりの手間と専門技術が必要となるため,特別な訓練を受けた大学院生等を雇用するための人件費が必要となる。さらに,平成23年度に行った研究成果の発表および資料収集のための旅費も必要となる。
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