2011 Fiscal Year Research-status Report
クマノミ類の社会行動:行動内分泌学の新たな実験モデルの確立
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23653219
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小川 園子 筑波大学, 人間系, 教授 (50396610)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 敏郎 筑波大学, 教育イニシアティブ機構, 准教授 (40321765)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 社会的性決定 / 個体間認知 / 脳内ホルモン機構 / 行動レパートリー / 性転換 |
Research Abstract |
攻撃行動、性行動、養育行動などの社会行動に加え、近年では、個体間認知に関係する行動にもホルモンの脳内作用が重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。本研究は、この様な個体間行動が、集団内の社会的構造の構築にどのように関わっているのかについて、群れの中の個体間の絆が強く、社会的性決定機構により各個体の地位が明確に定義できる性転換魚であるカクレクマノミを用いて行動解析を行い、社会性の形成、維持、変容についての新しい実験モデルとして確立することを目指すものである。具体的には、1) クマノミ類の個体間に見られる行動を継続的に記述し、社会構造(1匹の雌、1匹の雄と数匹の無性)の構築に至る過程に、社会行動(個体間行動)がどのような役割を果たしているのかを明らかにする、2) 無性から雄、雌と変化していく過程において、社会行動の変化に対応して脳内のホルモンやその受容体にどのような変化が見られるのかを明らかにする、という2点を明らかにすることにより、行動を通して確立される個体間関係が、性転換という内分泌事象に反映される過程を理解し、社会性のホルモン基盤の解明に迫ることを目的とする研究である。23年度には、クマノミ類の社会行動レパートリーの確立(実験1)および社会的な性決定にいたる過程での個体間行動の継続的観察(実験1)を推進した。カクレクマノミ16匹を体重差を最小にしてペアを作り、8つの水槽に分けて飼育した。ペア飼育開始時点から毎日給餌前後にビデオ記録し、社会行動の観察を行った。その結果、2匹のカクレクマノミ間に見られる社会行動として16項目の行動が抽出された。これらの行動レパートリーを基に、42日間にわたって社会行動の変化を解析したところ、、社会的地位確立(2匹の体重差の拡大)の速度と優・劣位行動頻度との間の関係が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度には、クマノミ飼育環境の整備や、クマノミを安定的に実験室に導入する方策の確立が進み、当初計画していた、実験1:クマノミ類の社会行動レパートリーの確立および、実験2:社会的な性決定にいたる過程での個体間行動の継続的観察について、極めて順調に研究が進んだ。第3実験の社会的な性決定にいたる過程での実験的操作が個体間行動に及ぼす影響の検討については、社会的性決定までに予想外に時間がかかったことから、すべての解析を終了することができず、24年度の研究計画に加えることになった。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度には、23年度に着手したものの終了することのできなかった実験3に加えて、当初の計画通りの3つの実験(4、5、6)の推進を計画している。実験3:社会的な性決定にいたる過程での実験的操作が個体間行動に及ぼす影響の検討:これまでの解析において明確にされた社会的性決定にいたる過程での個体間行動の変化が、以下の様な実験的操作によりどのように変化するのか、更にその後の性決定にどのように影響するかを検討する。(1) 社会的地位確立後、最も上位の個体(雌)あるいは第2 位個体(雄)を取り除いた場合、(2) 社会的地位の形成の過程の異なる時期に、無性の個体を群れに投入した場合、など。すべての観察終了後には、脳組織、生殖腺の採取を行う。実験4:個体認知に関与する要因の同定に向けての操作実験:擬似刺激や、拡大鏡、縮小鏡を用いた実験行動を通して、体の大きさの違いを認知する際に、最も重要となる視覚的要因を同定することを試みる。実験5:性の異なる個体間での脳内ホルモンレベルの組織学的検索:行動実験後に採取した脳組織を用いて、脳内のステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン合成・代謝酵素、神経ペプチド及びその受容体を免疫組織化学染色法により検出し、陽性細胞数を、雌、雄、無性の個体間で比較検討する。実験6:社会的な性決定にいたる過程での脳内ホルモンレベル変化の組織学的検索:行動実験により、最初に群れを構成してから最終的に性決定が起こるまでにかかる日数が明らかになった場合には、その期間内に数回にわたって脳組織を採取し、実験5 と同様に脳内のステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン合成・代謝酵素、神経ペプチド及びその受容体を免疫組織化学染色法により検出し、陽性細胞数の変化を行動変化、性転換の有無との関係を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度には、実験補助者を雇用せずに研究を推進したこと、一部の実験の遅れにより、消耗品の支出が計画よりも少なかったことにより、次年度に使用する研究費が生じた。これを含めて、24年度の研究費使用計画は以下の通りである。(1)物品費:クマノミの購入、飼育用資材(水槽、フィルター、人工海水等)、行動観察用カメラおよび記録用メディア(DVD、ハードドライブ等)、免疫組織化学染色実験用消耗品(試薬、抗体、スライドガラス等)(2)旅費:海外旅費(マレーシアモナーシュ大学での共同研究打ち合わせ、@100,000円x2人),国内旅費(日本動物心理学会於関西学院大学での情報収集、@40,000円x1人)(3)謝金:クマノミ飼育および行動解析補助(@300,000円x1人)(4)その他:成果報告費用
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Research Products
(17 results)