2011 Fiscal Year Research-status Report
エピソード記憶の想起意識とノスタルジア感情に関する認知神経科学的解明
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23653224
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 潤 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (70152931)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | エピソード記憶 / 自伝的記憶 / ノスタルジア / 意識 / SenseCam / 感情 / 日常記憶 / 日常認知 |
Research Abstract |
本研究は,エピソード記憶がもっている,過去の記憶を再体験するかのごとく想起する機能を,ノスタルジアを喚起するような音楽・画像刺激,および本人自身が経験した日常場面刺激(視覚刺激)を用い,行動実験および脳イメージング実験によって明らかにしようとするものである. 本年度は,(1)エピソード記憶の再体験的想起の特徴とノスタルジア感の関連,(2)自己の体験がエピソード記憶の再体験的想起の重要な手がかりとなるか,という側面について検討することを目指した. (1) エピソード記憶の特徴は,単に過去の出来事を思い出すことではなく,自分自身が再体験するかのように過去の出来事を思い出すことである.そのような過去の再体験的想起にしばしば伴う感情がノスタルジア感である.そこで,本年度は,ノスタルジアを感じる場合と感じていない場合で想起されたエピソード記憶の詳細さやその時点の感情がどのように異なるかを実験的に検討した.その結果,ノスタルジアを感じた場合の方がそうでない場合よりも詳細な記憶を想起していることがわかった.このことは,ノスタルジア感情の喚起が,mental time travelというエピソード記憶想起と強い関連があることを示唆するものである.ただし,想起した記憶の詳細さは,感覚モダリティによってやや異なるなど,解釈が難しい面もあり,実験手続きを改良して,次年度に実施予定である. (2)後者については,再体験感を強めるために自己の体験した記憶を用いることを目指して検討を進めた.機材としてSenseCam(Vicon Revue社)を購入し,実験への使用を検討しているところである.本年度中に実験参加者自身の日常生活を記録してもらうことを計画していたが,個人のプライバシーの問題があることが明らかとなった.この点を解決するための実験課題を検討し,次年度以降実施する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,エピソード記憶がもっている,過去の記憶を再体験するかのごとく想起する機能を,ノスタルジアを喚起するような音楽・画像刺激,および本人自身が経験した日常場面刺激(視覚刺激)を用い,行動実験および脳イメージング実験によって明らかにしようとするものである. 本年度は,(1)エピソード記憶の再体験的想起の特徴とノスタルジア感の関連,(2)自己の体験がエピソード記憶の再体験的想起の重要な手がかりとなるか,という側面について検討することを目指した.(1)エピソード記憶の再体験的想起の特徴とノスタルジア感の関連については,ノスタルジア感を強く感じる場合の方が,再体験感が高い(メンタルタイムトラベル),においなどの感覚情報が豊富,空間的位置情報や時間的情報が豊富,社会的つながり感(人に愛されている感じがする)が強いなど,ある程度の関連性が明らかとなった.このことは,過去のなつかしい出来事を想起することが,autonoetic consciounessを伴ったエピソード記憶を想起させ,鮮明な感覚情報を伴うこと,さらに,単に過去の記憶を想起するだけでなく,そのことが社会的つながり感を高めるといった心理的健康を向上させる機能を果たしていることが明らかとなった.今回は統制条件(なつかしさを感じない条件)として,1年前の出来事を想起させたが,そのため視聴覚情報は統制条件でもある程度高くなった.次年度に向けてより詳細な検討を行う予定である.(2)自己の体験を刺激として用いる点については,SenseCamという自動的に周囲の画像を収集する装置を用いる予定であるが,当初の実験計画では倫理的問題が明らかとなったため,やや進行が遅れているが,特別な実験場面を設けるという解決策も見いだしたため,次年度に向けて予定通り実施可能と考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
エピソード記憶とノスタルジア感の関連については,実験手法も見いだしつつあり,精緻な検討が可能となってきた.それらをさらに洗練させていく予定である.すでに,ノスタルジア感を伴う記憶を想起することが,単に記憶の想起にとどまらず,他者との社会的絆を高めるといった効果があることを見いだしてきている.本研究の目標の一つは,記憶が単に認知機能の一つにとどまらず,人間の幸せ感を保つ重要な機能を持っていることを示すことであり,その可能性の証左を得ている. さらにノスタルジア感については,脳神経科学や神経心理学分野でも関心が高いが手つかずのテーマであり,隣接領域の新しい手法や知見を取り入れて行くことが,上記の特徴の背景基盤を明らかにするという点で,より大きな発見につながると考えている.今年度は日本心理学会公開シンポジウムで講演を行い,多領域からの関心があることがわかったため,さらに精力的な情報交換を行っていく予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度はSenseCamを購入したが,それを用いて参加者自身の日常生活データを収集する研究手法に倫理的問題が明らかとなったため,その実験の実施ができなかった.検討の結果,解決法が明らかとなったため,次年度実施予定であり,実験実施のための謝金,イメージング研究実施の際の機器使用料,データ解析に関する専門的知識の提供,またそれらの結果に関する研究発表旅費等として使用する予定である.
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