2013 Fiscal Year Annual Research Report
エピソード記憶の想起意識とノスタルジア感情に関する認知神経科学的解明
Project/Area Number |
23653224
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 潤 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (70152931)
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Keywords | エピソード記憶 / ノスタルジア / 自伝的記憶 / 意識 / なつかしさ |
Research Abstract |
エピソード記憶のもつ再体験的想起の特徴とノスタルジア感(なつかしさ)の関係について,これまでの研究成果をまとめるとともに,ノスタルジアの機能の一つと考えられる意思決定の問題について検討を行った。まずこれまでのノスタルジアに関する研究を展望し,当初は病名として扱われていたこと,近年ではより実証的な研究が進められ,孤独感の低減など社会的つながりを保つ機能があると主張されていることがわかった。しかし多くは調査研究であり,実験研究は少なく,その生起メカニズムは明確でないことを指摘した。また,記憶理論と関係づけた研究はなかった。そこで,エピソード記憶のメンタルタイムトラベルという再体験感とノスタルジア喚起の関係について考察し,「なつかしさの心理学」の1章としてまとめた。そこでは,本研究課題で実施した,ノスタルジア喚起の反応時間を調べる研究を元に,ノスタルジア感の喚起という感情的要素とエピソード記憶の想起という認知的要素の関係を議論した。さらに,ノスタルジア感情の機能を明らかにするために,ノスタルジア感の喚起が意思決定に与える影響,特に道徳判断課題に与える影響を検討した。道徳判断課題は,多数の利益のために少数を犠牲にすることを支持するかどうかを問うモラルジレンマ課題を用いた。その結果,ノスタルジア感を感じている条件では,目の前の少数者を犠牲にすることを避けるという義務論的判断が増加し,多数のためには少数を犠牲にしてもよいという功利的判断が減少することが明らかとなった。詳細な視覚情報の喚起が功利的判断を減少させるという研究があることから,この現象の背景には,ノスタルジア感を感じたことによって詳細な視覚的情報を伴うことが考えられる。またエピソード記憶と深く関係する,エピソード的未来思考の特性に関する検討も行った。
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