2011 Fiscal Year Research-status Report
義務教育≠就学義務のシステムが保障する無償の範囲に関する研究
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23653252
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
西村 史子 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (10316846)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ホームスクーリング / アメリカ合衆国 / 税控除 / バーチャルスクール / サイバースクール / イリノイ州 / ミネソタ州 / ルイジアナ州 |
Research Abstract |
本年度は、アメリカ合衆国のホームスクーリングの制度および実践形態を整理し、各州の各家庭への教育費支援の実態を調査した。1990年代に全州で合法化されたホームスクーリングは、義務教育としては「私立学校」ないし就学以外の教育形態として各州で認められている。学校教育環境や教育内容・質への不信により就学を回避し、サイバー/バーチャルスクールの浸透を介して、ホームスクーリングを選択する層が増えている。それを後押ししているが、全米各種Bee コンテストでの生徒の上位入賞と社会的評価の高い大学への進学実績である。 全米の学齢児童生徒の3%に達したホームスクーリング生徒の家庭に対する教育費の経済的支援に、州所得税の税控除がある。ミネソタ、イリノイ、ルイジアナの3州が導入している。いずれもホームスクール(home school)という「学校」教育を認め、各家庭は控除を利用できる。連邦所得税の控除適用は認められていない。 一方で、チャータースクールの一形態としてホームスクーリングが浸透し始めている。この場合、チャータースクールはインターネットを活用したバーチャル/サイバースクールである。2000年代以降の連邦政府のeラーニングの推進政策を受け、急速に在籍者数が増えている。家庭はPC、教材費、プロバイダー接続料等の諸費用を全て公的に負担され、生徒は家庭で学習しているものの、学校指定のカリキュラムや教材を利用し公教育に包摂されている。伝統的なホームスクーリングを実施していた家庭が、経済的事情からこういったチャータースクールにシフトする事例が増えている。 伝統的な就学形態をとらない義務教育が、公的負担=社会的認知及び許容によって広がりつつあること。地域のコミュニティから離脱する行為としてのホームスクーリングが、インターネット上で新たなネットワークを築きつつあることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究の進捗状況は残念ながらはかばかしくない。アメリカ合衆国のホームスクーリング家庭への税控除政策の分析は不十分のまま終わった。政策を採用している3州(ミネソタ、イリノイ、ルイジアナ)の制度導入の経緯、利用世帯数、平均控除額等に関する事例研究は、資料収集が不足しており記述が完了していない。 ホームスクーリングからバーチャルチャータースクールへの転換家庭、バーチャルスクール選択家庭、伝統的ホームスクーリング維持家庭等、非就学型の義務教育形態の選好や費用負担の比較分析が不十分である。また、各州の義務教育修了資格取得の方法についても未整理のまま、アメリカ合衆国の非就学型の義務教育修了者に求められる学力ないし学習到達度の内容、就学型の義務教育に比してカバーし得ない学習領域を集約していない。就学型/非就学型の義務教育をめぐる世論と教育学的論議について、アメリカ合衆国の研究者との意見交換の機会もわずかで、研究の枠組み構築に必要な理論分析も予定通りに進まなかった。バーチャルチャータースクールの普及が、アメリカ社会でのホームスクーリングの存在意義を変容し得る可能性についても、HSLDAの危惧を示すに留まり、他の見解に目配りできなかった。 日本については、「中学校卒業程度認定試験」「高等学校卒業程度認定試験」に関わる家庭の費用負担、不登校の児童生徒が家庭での学修にかかる費用について、データを入手できずにいる。したがって、非就学型義務教育の日米制度比較は所期の目的を概ね達成したが、家庭の費用負担および軽減については日本の実態を把握できていない。 理由は、東日本大震災の発生、科学研究費の基金化決定の遅延と内定通知の遅れ、続く勤務先の学年暦の変更、節電による研究環境の悪化、体調不良が重なりスケジュール調整に困難を来したためである。このため、学会発表の取りやめ、海外出張日程の変更など余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
ホームスクーリングの全米での合法化に寄与したHSLDAの責任者、同協会シンクタンクNHERIの研究者との面談をおこない、サイバー/バウチャースクールを介したホームスクーリングと公教育の関係について意見交換を予定している。ダニエル・ベル、アルビン・トフラーの未来社会理論が演繹可能かどうかも確認したい。 また、非就学形態の義務教育制度に関するフランス、中国の歴史と現在の動向を把握する。先行研究を踏まえ、先進国でありカトリックの影響が強いフランスの伝統的な非就学形態の義務教育の容認の歴史と現状を、法整備および家庭への公的経済支援の仕組みから整理する。中国については、税制度が確立している香港と台北の2都市に限定するとともに、就学が困難な過疎・僻地地域の実態を概観する。これについては、在京の中国人留学生、研究者との面談調査から実態を把握するとともに、資料提供を求める。さらに、計画を変更してアジア新興国のシンガポールとインドの現状にも目配りする。いずれも、各国及び各都市の教育行政担当者から情報および資料提供を求める。 (1)義務教育=就学義務の確立し終えた段階と、(2)学校設置が不十分な段階での非就学型義務教育の実態と意義を整理し、現代のインターネットの役割を分析する。すなわち、家庭と学校、学校と社会の境界と役割機能が、インターネットを利用した学習や教育を通じてどのように変容し、子どもの社会化が従来とはどのように異なるプロセスを経るのか、発達心理学や教育社会学領域の研究資料の成果も参考にしながら検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の遅れの原因は先に述べたとおりだが、本年度の資料収集不足は研究費の未消化として示されている。次年度は、繰り越された研究費を書籍購入や資料複写費として使用し、データ収集の充実に努め、未完了の分析検討作業を遂行する。さらに、新たに設定した研究対象国への旅費に充当する。 したがって、非就学型義務教育の実態について情報及び資料提供を求め、その制度理念と整備の沿革を確認するため、計画済みのパリ(7日間)、台北(3日間)での現地調査を行い、中国への出張は見合わせる。その代わりにデリー(7日間)への調査を加える予定である。各国の教育省関連部局の担当者、教育行政研究者と面談し、議会図書館や主要大学図書館での資料閲覧および複写作業をおこなって所与の目的を達成したい。 また、インターネットを活用した学習、サイバー/チャータースクールでの学習が公立学校教育化ないし公教育への包摂として社会的に容認される諸条件を分析するため、家庭への公的経済支援の他、インターネット社会での個人の社会化、ネットワーク形成、インターネット社会と国家の関係に関する書籍、研究資料を収集する。 以上、概算で書籍および資料収集の費用として20万円、調査研究の旅費として40万円を使用する予定である。成果報告に関する費用は、勤務校の個人研究費予算に計上してある。また、現地での通訳、資料の翻訳作業にかかる費用が発生した場合は、同様の予算枠から支弁する。
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Research Products
(1 results)