2011 Fiscal Year Research-status Report
教員採用の市場化をめぐる、大学・教育委員会・教員採用試験産業のダイナミクス
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23653273
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Research Institution | Saitama Gakuen University |
Principal Investigator |
布村 育子 埼玉学園大学, 人間学部, 准教授 (70438901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陣内 靖彦 聖徳大学, 公私立大学の部局等, 教授 (30014848)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 教員採用試験 / 選考 / 教育委員会 / 教員免許制度 / 教員養成 |
Research Abstract |
本研究グループは「教員採用」の総合的な研究を企て、今日の教員採用に関わる「教育委員会」「大学」「教員採用試験産業」のダイナミクスを捉えることを目的とし研究を行っている。平成23年度は主として「教育委員会」の実態調査と分析を行った。 まず教員採用試験の動向を整理するために、各自治体が実施する採用試験の量的動向を整理した。通常採用試験においては、受験倍率が採用の動向を把握する際の基準となる。しかし本研究グループでは、「採用規模」の多寡もまた「教員採用試験」の方針及び内容に影響を与えるという仮説をたて、「採用規模」の大きな自治体の教育委員会を抽出しヒアリング調査を計画した。結果として8つの自治体の教育委員会の採用担当者へのヒアリング調査を行うことができた。このヒアリング調査からは、教員採用の現場では教育公務員特例法に規定されている「選考」が意識されておらず、教員採用を「試験」として捉え実施しているという側面が明らかになった。また教員採用を担当する職員の人数の少なさや、採用スケジュールの過密さからは、教員採用の現場では、「選考」の意義のもとに「採用試験」を振り返るといった作業ができにくい構造にあることがわかった。これらのヒアリング結果とその分析については、第21回日本教師教育学会(福井大学)及び第63回日本教育社会学会(お茶の水女子大学)で発表を行った。さらに有識者を招いて、学会発表の内容に意見を伺う機会をもった。 また各自治体及び政令指定都市の「採用候補者選考試験実施要項」を収集しその分析を行った。この実施要項からも「選考」が「試験」として捉えられているという傾向が導き出された。 なお、上記の調査研究に関しては12回の研究会を開催し、ヒアリング調査の計画から実施方法まですべてを各メンバーが把握できるようにした。また調査結果の分析も共同で行い、本研究の進捗状況は共有されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「平成23年度研究実施計画」には、主として教育委員会の実態調査と分析を中心に研究を進めることが記されている。「研究実績」でも報告したように、平成23年度は、当初計画していた教育委員会の採用担当者へのヒアリングを行うことができた。また「実施計画」で示したように、これらの結果については、第21回日本教師教育学会(福井大学)及び第63回日本教育社会学会(お茶の水女子大学)で発表を行っている。さらに現在、各自治体が受験者向けに配布している「教員採用候補者選考試験実施要項」を収集し分析を行っている。この分析結果については、今年度実施したヒアリング調査の結果と合わせて学会発表を行う予定である。 以上のことから、今年度の研究の中心であった教育委員会の実態調査と分析については、おおむね順調に進めることができたといえる。 課題としては、ヒアリング調査をもう少し多く実施する予定であったが、それが出来なかった点である。その理由として、各教育委員会の教員採用の現場は非常に過密なスケジュールで動いており、また採用試験の前後では、担当者との連絡がとりにくいこともあって、ヒアリングを承諾する教育委員会が限られてしまったことが挙げられる。しかしこのような採用の現場の実状は、実際に調査を行うことで知り得た事柄でもあるため、予見することは難しかった。 また、有識者からの意見を伺う機会を多く設けたかったが、ヒアリングの日程を優先させたため、日程が合わず実施することができなかった。「旅費」及び「謝金」の使用が「使用計画」よりも少額になったのは、このためである。 これら課題については、本研究グループのメンバーで行っている研究会において改善方法を随時検討している。平成24年度には、ヒアリング調査は続行させるため、これらの改善方法を踏まえ実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、これまで自発的に行ってきた研究成果と、平成23年度の研究成果に考察を加え、本研究の総括を行う。本研究の課題名は「教員採用の市場化をめぐる、大学・教育委員会、教員採用試験産業のダイナミクス」である。以下、(1)「大学」、(2)「教育委員会」、(3)「教員採用試験産業」のそれぞれについて、研究の推進方策を示す。 (1)大学:大学における「養成」が、現在の「教員採用システム」主導で行われている実態を明確にし、「養成」「採用」「研修」のサイクルが「理念」よりも市場原理を軸に展開していることを明らかにする。 (2)教育委員会:各自治体の教育委員会に行ったヒアリング調査の結果と、実施されている「採用試験」の実態を踏まえ、教育委員会が「採用」を担当することに関する課題を明らかにする。 (3)教員採用試験産業:現在の「教員採用システム」には、「教員採用試験産業」が大きくかかわり、その役割が大きくなっている。キャリア教育の一環として教員採用試験産業に頼る「大学」だけではなく、採用試験の「問題作成」を「試験産業」に頼る教育委員会もある。このように、「教員採用試験産業」が「教員採用システム」に果たす役割を明らかにする。 これら(1)~(3)のダイナミクスを捉えることは、教育公務員特例法第11条に規定された「選考」の意義を再考することにもつながる。なお、本研究では、公立学校の教員採用に焦点を当て行ってきたのであるが、研究を続ける中で、私立学校の教員採用及び海外の教員採用の実態にも関心が生まれた。したがって、平成24年度の研究において、公立学校教員の研究を終えたのちには、視点を私立学校の教員採用及び海外の教員採用にも広げ、研究を推進する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、補助事業期間の最終年度である。本研究の成果をまとめた報告書を作成するための費用を200,000円とした(「その他」に計上する)。 平成23年度に行った各自治体の教育委員会へのヒアリング調査を続行するため、「旅費」を600,000円使用する。ヒアリングは10箇所を予定しており、調査は平成23年度同様に、研究代表者(布村育子)、研究分担者(陣内靖彦)、研究協力者(坂本建一郎)の3名で行う。つまり、ひとり200,000円の「旅費」を使用する。ヒアリングを行う教育委員会への謝礼として30,000円使用する(「その他」に計上する)。そのヒアリング結果を録音したテープ起こしを依頼する必要がある。これは平成23年度同様に、信頼のおける協力者に依頼する。このため110,000円(90分×120円×10件)を「謝金」として使用する。 平成23年度同様に、各自治体及び政令指定都市の「教員採用候補者選考試験実施要項」を収集する。さらに平成24年度は、「教員採用候補者選考試験実施要項」の根拠となる法令(条例)等を各教育委員会から収集する予定である。そのために80,000円を通信費として使用する(「その他」に計上する)。 学会発表以後は、有識者を招いて本研究に意見を伺う機会を設ける予定である。その際の謝金として40,000円を使用する。調査計画等を決定する研究会を開催するために50,000円を使用する(「その他」に計上する)。研究協力者の学会発表の「旅費」を50,000円使用する。 以上、合計1,160,000円を使用する。
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Research Products
(2 results)