2011 Fiscal Year Research-status Report
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23653288
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
安 直哉 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (30230204)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国語科教育 / 国語教育史 |
Research Abstract |
本年度は3年間の研究の初年度にあたるため、研究上の基本概念や基本用語の定義および今後の発展の方向性について考察した。 昭和10年前後頃から、国語教育(特に読み方教育)において解釈学が導入され昭和十年代前半は解釈学的国語教育が隆盛した時代となった。「解釈」とは、所与の文章から、そこに込められた意義(思想・心)を把捉することであり、「解釈学」とはその方法論となる。 国語教育における解釈学導入にあたっては、「学習者重視の読み」を否定したものであるという否定的評価と、読み手の解釈が尊重されるようになったという肯定的評価の両方が現在の国語教育史研究上に存在する。 申請者は、昭和十年代の国語教育に解釈学を導入した主導者である、輿水実の言説に沿って、この問題を究明した。輿水は、「解釈は、その限り常に、何らか建設的なるものである。従つて、主観的なるものの介入を避け難いのである。」と論じている。解釈学の中核に「主観」が組み込まれていると仮定しつつ理論的解明をするのが妥当である。この「主観」という用語は、教育場面において「主体」とも換言できる。また、解釈学を確立したディルタイの言説に基づくと、解釈学を通して主体は歴史的意識を培われ、また歴史的意識に沿って主体は解釈学を駆使しつつ過去の一個の人間を了解することができることになる。申請者はここに〈歴史的主体〉というキーワードを措定した。読み手(児童)を〈歴史的主体〉になるように指導するという観点から、昭和戦前戦中期の読み方教育の動向を解明していく。 このように、読み方教育を〈歴史的主体〉形成過程という観点から考察することで、昭和十年代の国語教育の実相について、ある程度の解明が図れる見通しがついた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究題目は「実物資料による国民学校期国語学習の事例研究」である。第一段階は基本資料の収集である。基本資料となる「実物資料」は既に入手ずみである。第一段階は完了したものと言える。第二段階は、周辺資料の収集である。国民学校期国語学習に関する周辺資料についても、数多くの文献資料の収集をほぼ終了し終えている。第二段階もほぼ完了したものと言える。第三段階は研究に係る基本概念や基本用語の確定である。本研究の中心的用語となる「〈歴史的主体〉」について考察を終えた。また、昭和十年代の国語教育論を主導したと言われる輿水実の解釈学理論についても、その詳細を検討した。以上により、基本概念や基本用語の検討はほぼ終了した。 研究の最初の三段階はほぼ終了したと言える。この三段階は三年計画の本研究全体の約三分の一の部分に相当する。本研究全体の約三分の一の計画をほぼ終了したことにより、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、本研究の中核となる、「実物資料」そのものの考察に入る。約350点の実物資料のうち、特に国民科国語に関する資料を中心に詳細な解読を行う。国民科国語のなかでも、資料的価値の高いのは、「ヨミカタ」の学習プリントである。 当面は「ヨミカタ」の学習プリントを解読していく。「ヨミカタ」の国定国語教科書および教師用指導書と照合しつつ、国民学校の国民科国語「ヨミカタ」において、どのような学習作業がなされていたのかを再現する。教師用指導書には、教材観等が書かれているが、それが学習プリントにどのように具現しているかを検証する。 国定国語教科書とそれに沿って発刊された教師用指導書に描かれている内容が、国民学校期当時の国語教育であったというのが学界の一般的見解である。しかし、申請者は、そこに「ヨミカタ」の学習プリント等を加え、教科書・指導書・学習プリントの三者の関連性のなかに当時の国語教育の実際を見ようとするのである。ここに本研究の独創性がある。平成24年度は以上のような研究を実行する予定である。 このように平成24年度は細部の資料から読み解く手法をとるが、最終年度となる平成25年度は、再び、国語教育を俯瞰的な視野から考察していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国民学校期国民科国語「ヨミカタ」を研究対象の中心に据えて考察を進めていく。その考察を進めるに従って、国民学校期(具体的には昭和16年から昭和22年)の様々な情報が必要になってくる。そうした情報を、主に当時の文献から補完していく。そのためには、当時の文献資料を購入しなければならない。全国の古書店から古書を購入する。研究費の大半はこうした古書購入に充てられる。 また、古書市場でも手に入らず、大学図書館間相互貸借も不可となった文献については、所蔵図書館に直接出向いて閲覧する。そのための文献調査旅費が必要となる。 以上のように、次年度の研究費の使用計画については、その大半が古書の購入、一部が文献調査旅費とする。
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Research Products
(1 results)