2012 Fiscal Year Research-status Report
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23653288
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
安 直哉 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30230204)
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Keywords | 国語科教育 / 読み方教育 |
Research Abstract |
本年度は、本研究課題「実物資料による国民学校期国語学習の事例研究」の中核部分を成す研究を行った。「事例研究」として取り上げたのは東京府青山師範学校附属国民学校(小学校)である。同校では、昭和8(1933)から垣内松三の指導のもと、形象論的解釈学的読み方指導がなされていた。このことは同校の沖山光訓導が記録として残した実践例からも裏付けられた。 形象論的解釈学的国語教育と対極に位置するのが、身体主義的国語教育で、具体的な読み方指導としては素読教育が相当する。東京府青山師範学校附属国民学校(小学校)では、形象論的解釈学的国語教育の実施と並行して、素読教育にも力を入れていた。そのことは、同校が昭和15(1940)年に『素読教育の実践』という本を上梓していることからもうかがえる。素読教育の思想的背景には、「読むことを反復するといふ点に於いて既に一種の行の形式を具へてゐる。」(p.2)というように、行的認識の発想と共通するものがあった。 平成22(2010)年8月、研究代表者は、東京都武蔵野市の、とある古書店で、資料一式を購入した。それは、昭和16(1941)年度に東京府青山師範学校附属国民学校に入学した一女児童が、1年生のときから4年生のときまでに残した学習資料約350点であった。一児童の作品(実物資料)が、これだけまとまって残っているのは極めて稀である。国民学校教育によって、一児童がどのように発達していったかを克明に知り得る貴重な事例研究となる。 同児童が残した資料のうち、特に「ヨミカタ」の試験を精査した。その結果、「ヨミカタ」の試験においては、すべて国定国語教科書を丸暗記していないと解答できない設問から成っていることが分かった。 東京府青山師範学校附属国民学校国民科国語の第1学年において、素読・暗記が盛んに実施されていたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の中心は、東京府青山師範学校附属国民学校で学んだ一児童が残した作品(実物資料)約350点について、整理・分析・考察することであった。その作業は平成24年度にほぼ完了した。 昭和初期以降の国語教育においては、大きくは言語主義的国語教育と身体主義的国語教育といった二つの教育思潮が認められた。言語主義的国語教育は、具体的には形象論的解釈学的読み方教育として国語教育の主流を形成した。その一方、身体主義的国語教育は、具体的には素読教育として、明治初期から国語教育の伏流としてその命脈を保ってきた。この二つの読み方教育思潮は拮抗しつつも絶えることなく現在まで続いている。 本研究課題が対象とした国民学校期(昭和16年から昭和22年頃まで)においては、身体主義的国語教育が急激に台頭した。具体的には素読教育が重視され、徹底した暗記・暗誦が学習者に求められた。この事実を東京府青山師範学校附属国民学校(小学校)の刊行物、および同校で学んだ一児童が残した実物資料から明らかにした。 暗記・暗誦については、近年の脳科学的知見をもとに、限定的であれ、その教育効果が再評価に値することも論じた。
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Strategy for Future Research Activity |
身体主義的国語教育が国民学校期国語教育で急激に台頭したことは、平成24年度の研究の結果明らかになった。その一方、昭和初期に確立され、現在まで国語教育の本流に位置づけられる言語主義的国語教育は、どのような状況にあったのか。この点の研究が今後の課題である。身体主義的国語教育と言語主義的国語教育の両方の展開動向を俯瞰することで、昭和戦前戦中期の国語教育の全体像が見えてくるからである。 当時の言語主義的国語教育は、形象論的解釈学的国語教育に代表される。その指導理論は、戦後、「国語教育解釈学」と呼ばれるようになった。国語教育解釈学の形成過程の考察を通じて、国語教育解釈学が内包する特質や性格について明確化していく。具体的には、昭和戦前戦中期に勃興してきた「日本精神」という思想が、国語教育解釈学の形成過程に与えた影響を軸に考究していく。 また、この時代には「日本教育学」と呼ばれる教育学説も提唱された。その「日本教育学」も国語教育解釈学の形成に際して少なからぬ影響を与えている。渡部政盛の日本教育学思想を検討しつつ、国語教育解釈学との関連を論じる。その一方で、芦田恵之助が唱えた「自己を読む」という読み方教育思想も国語教育解釈学形成に関与していた。 これらの諸思想が複雑に織り込まれながら国語教育解釈学は形成されていった。その形成過程を綿密に研究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定通り、備品としては国語教育関係図書の購入が中心になる。 旅費も計上されている。昭和戦前戦中期の希少資料が所蔵されている全国の図書館に赴き、それらの希少資料を閲覧する予定である。
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Research Products
(1 results)