2011 Fiscal Year Research-status Report
小学校音楽科における児童の音楽的思考を深める「言語活動の充実」の分析と具体化
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23653307
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Research Institution | Uekusa Gakuen University |
Principal Investigator |
高木 夏奈子 植草学園大学, 発達教育学部, 准教授 (50531620)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 小学校音楽科 / 言語活動の充実 / 音楽的思考 |
Research Abstract |
(1)本課題の基礎的な概念の一つである「音楽的思考」の言語分析を行い、日本音楽教育学会で発表を行った。内容は次の通りである。「音楽的思考」の語は、1960年代アメリカの教育課程改革運動の一つ Manhattanville Music Curriculum Program(以下、MMCPと略記)で用いられた "musical thinking" の訳語として小島律子が1980年の論文で日本に紹介した。MMCPでは、「音楽的思考」の語は特に定義されずに「音・音楽に即して考えを進めるという包括的な意味あい」で用いられていた。兼平佳枝(2009)は日本の学校音楽教育では「音楽的な問題解決過程における内的思考を言い表す用語として定着してきた」としている。しかし、小島・兼平らが所属する日本学校音楽教育実践学会のラウンドテーブル報告を確認すると、1998~2001の時点では用語の共通理解は成立していない。 「音楽的思考」の語は、まだ述語として定着しているとは言い難く、論者によってさまざまに用いられており、使用する際には留意が必要であることが明らかになった。(2)小学校音楽科における言語活動の事例の蓄積を図った。研究協力者の授業を参観し、また、児童が記述した音楽鑑賞カードの提供を受けた。学生アルバイトの協力を得て、その一部をデータとして入力した。現在は、学年の異なる児童が同一の楽曲を聴いて感じ考えたことを記述した事例を分析中である。年齢(発達段階)の違いによって記述の違いはどのように発現するのか、あるいは年齢に関わらず記述の方法は類型化が可能なのか、個人によって音楽聴取のストラテジーがみられるのか、等の視点から分析を行う予定である。さらに、分析に適した事例の探索・蓄積を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)購入予定であった図書が品切れで入手できなかったり、研究の効率を高めるための学生アルバイトの手配など、研究態勢の整備にやや時間がかかった。(2)23年度は、現場の実情を把握しながら分析対象事例を蓄積する計画であった。研究協力者の授業を9月から1月まで計29時間参観した。提供された音楽鑑賞カードの一部をデータとして入力し分析中であるが、さらに、分析に適した事例を探索・蓄積が必要だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)分析のための概念の整理を記号論・分析哲学的手法により引き続き行う。用語の意味の確認が不十分なまま議論が行われると、本来であれば生じないはずの混乱が生じてしまう。有益な議論のためには概念の整理と確認は必要不可欠な作業であり、音楽教育研究の基礎をなす重要な仕事である。(2)23年度に入手した小学校音楽科における事例の分析を行う。事例の数の多さに説得力を求めるのではなく、範例となりうる事例を深く分析することにより、音楽と言語をめぐる諸問題への示唆を得る方向で分析を行うことを考えている。(3)小学校音楽科の授業参観を継続し、現場の動向の把握に努める。研究計画書に記載した研究協力者が23年度末で退職したため、他の研究者の協力を得て、授業を参観できるように手配中である。各種団体の公開研究授業等にも参加し、新たな分析事例の蓄積に努める。(4)本課題遂行のための示唆を得るため、音楽科における言語活動に限定せず、次のような研究動向にも注目する。(1)他教科における言語活動の研究動向。例えば、美術教育における「対話型鑑賞教育」(VTS)の動向等。(2)〈音〉の印象をオノマトペやモーションで表現させることにより、〈音〉の感受経験を強化しようとする阪井恵氏(明星大学)の研究動向。(5)上記の分析等を踏まえ、指導案の立案等、現場に提言を行うための準備を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)物品費…分析のための概念整理に益する記号論・分析哲学・教育関係等の図書を購入する。また、指導事例の蓄積のためにも図書類の購入が必要である。研究の円滑な遂行のために必要な諸物品(トナー、紙類等)を購入する。(2)旅費…授業を参観し、また、学会・研究会等に参加する。授業参観は、現在のところ、品川区の公立小学校を予定している。学会は、日本音楽教育学会で発表を行い、日本学校音楽教育実践学会等への参加を予定している。その他、音楽授業ラボラトリー(事務局・筑波大附属小)等への研究会にも参加する予定である。(3)人件費・謝金等…研究の効率を高めるための学生アルバイト(資料整理等)、研究論文を投稿する際の英文要旨の翻訳料など。(4)その他…研究成果発表のための費用、印刷・複写費等。
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Research Products
(1 results)