2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23654041
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
太田 克弘 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40213722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 芳彰 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (90325043)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 三角形分割 / 閉曲面 / グラフ理論 / 辺の縮約 / 同型判定 / 既約三角形分割 / 多重辺 |
Research Abstract |
閉曲面上の三角形分割となるグラフのうち,どの辺を縮約しても多重辺が生じてしまうグラフを既約三角形分割と呼ぶ.既約三角形分割は各閉曲面に対して有限個であることが理論的に示されており,それら既約三角形分割の性質がその閉曲面上の三角形分割全体の性質を反映していることがしばしばある.したがって,既約三角形分割をすべて列挙し,それらの組合せ的性質を調べておくことは,今後の研究において重要なことである.今年度は,まず向き付け可能な閉曲面において,その既約三角形分割を生成するプログラムの基本的アルゴリズムとその実装を行った.従来の方法とは異なり,多重辺やループをもつ三角形分割にまで生成するグラフの範囲を広げ,1頂点といくつかのループからなる三角形分割(ブーケ)から頂点分割を繰り返して三角形分割を生成するプログラムの開発を行った.埋め込みの仕方まで込めた三角形分割の同型判定については,比較的単純なアルゴリズムでもそこそこの効率で判定できるため,正しいプログラムであることを重視してインプリメントした.加えて,各三角形分割の自己同型写像をすべて列挙することにより,頂点分割により新たな三角形分割を生成する際の枝狩りを効率よくできるように考慮した.結果として,単純グラフに限らず,閉曲面に埋め込まれた三角形分割のデータ生成の基本的な部分が出来上がった.トーラスについては既約三角形分割をすべて生成することができ,既存のリストと一致していることを確認した.またダブルトーラスについては,三角形分割となるブーケの生成までは完成している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
閉曲面上の三角形分割を生成する上で最も基本となる部分のプログラムはほぼ完成しており,それをトーラスに適用することにより,知られている既存の結果と同じものが得られていることが確認できている.既存の他者の研究と異なり,ループや多重辺のあるグラフを扱えるプログラムを作成したため,これまであまり明らかにされていなかった,ループ・多重辺を含む三角形分割に関する知見も得られている.例えば,これ以上辺の縮約を行うとループが生じてしまうという意味で極小な三角形分割のリストも得られている.さらには,同型判定アルゴリズムの応用として,各三角形分割の自己同型に関するデータも得られている. また,他の閉曲面上の三角形分割の生成にあたっては,三角形分割となるブーケ(1頂点のグラフ)がベースとなる.1頂点のグラフとは言え,ダブルトーラスでは9本のループが接続しており,その接続の仕方は単純には 18!通りある.したがってその中から三角形分割となるものを特定するのはそれほど簡単ではない.実際には,8通りのブーケがダブルトーラスの三角形分割に対応するところまでをプログラムで確かめることができた.ダブルトーラスの既約三角形分割の生成は,これらブーケから頂点分割を用いて行う予定であるが,途中で生じるグラフが膨大になることが予想されるため,同型判定の効率化および,なるべく同じグラフを生成しないようなアルゴリズムを提案するための理論的考察が必要となっている.
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Strategy for Future Research Activity |
まず昨年度に継続して,既約三角形分割の生成を続ける.とくに,向き付け不可能な閉曲面上のグラフを扱う部分についてはまだプログラム作成が済んでいないため,これの完成をまず第1に行う.向き付け不可能な閉曲面上のグラフを扱うためには,各辺がツイストしているかどうかの情報を持たせる必要がある.しかしこの情報の与え方には自由度があるため,同じ三角形分割が非常に多くの異なる表現を持つことになる.この表現の自由度を抑えるための理論的考察が不可欠になると思われる.一方で,射影平面,クラインボトルでは,そのような自由度を生成段階では考慮せず,同型判定に委ねるだけでも十分かもしれない.この両面での研究を進めていく. さらに,向き付け可能・不可能それぞれの閉曲面において,もう一つ種数を上げた閉曲面においても生成を行う.そこでは,膨大なデータが生成されることが予想されるため,生成アルゴリズムの効率化が必要となってくることが予想される.理論面での研究を並行することにより,データ生成の完成を目指す. 生成された三角形分割に対しては,ハミルトン性や染色数などの情報を付加して,データベースの構築を目指す.このデータベースを元にして,グラフを組み合わせてやや規模の大きいグラフをランダムに生成し,遺伝的アルゴリズムなどを駆使することにより,グラフ理論の未解決問題の反例の検索につなげていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度から次年度使用に回った研究費は,学生のアルバイトが予定ほど使えなかったことによる.得られたデータの整理など,次年度に回して使用する. 得られたデータの保管およびバックアップのため,LAN接続ハードディスクを購入する.三角形分割となるグラフの生成プログラム,およびそれに付随した生成データの整理などには,大学院生などを用い,アルバイト謝金を支払う.プログラムの生成および実行に付随して,アルゴリズムの検討,理論的考察のためには,グラフ理論研究者,とくに位相幾何学的グラフ理論の研究者との研究連絡,情報収集が不可欠である.学会,研究集会などで発表・出席することによりそのような機会を作る.
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