2012 Fiscal Year Research-status Report
複雑ネットワークのスペクトル解析と頂点間統計量によるモデル化手法の構築
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23654046
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾畑 伸明 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (10169360)
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Keywords | ネットワーク / 量子確率 / 量子ウォーク / ランダムグラフ / スペクトル / 局在化 / 有向グラフ / 固有値分布 |
Research Abstract |
本研究の目的は、巨大なグラフ、成長するグラフ、ランダムグラフ、辺に向きや加重など付加構造をもつグラフ(ネットワークと総称)のスペクトル解析を展開する。特に、量子確率的な観点と手法によって新しいアプローチを提案し、ネットワークの背後に非可換的 構造を探索する。次いで、ネットワーク上の確率過程に付随した頂点間統計量の漸近挙動を解明し、ネットワークの構造を推定するモデル化手法(逆問題)を確立することにある。今年度は「複雑ネットワークのスペクトル解析」と「頂点間統計量の確率解析」に関して成果が上がった。 1.有向グラフのスペクトル解析:前年度に引き続いて、有向グラフのマンハッタン積のの具体例について結果を蓄積した。特に、パスグラフのマンハッタン積で、一方のパスグラフが小さい場合については、行列解析によって詳細な結果が得られ、ゼロ固有値の重複度を求めることができた。因子数が少し大きいものに対しては、数値計算による観察を続けている。 2.距離kグラフのスペクトル解析:前年度は、超立方体の距離kグラフの固有値分布を完全に決定し、因子の個数が無限大になる極限分布を具体的に導出した。今年度は、これを一般のグラフの直積の場合に拡張して、同様の結果を得ることに成功した。また、超立方体の場合には、加重付グラフに拡張することでq変形を構成することができた。 3.グラフ上のダイナミクスの確率解析:前年度に引き続いて、スパイダーネット上の量子ウォークの局在性について研究を継続した。また、量子確率論において基本的である相互作用フォック空間の手法を古典的なランダムウォークに応用して、nステップ推移確率や再帰確率に関する公式を再構成した。この公式をさらに一般のグラフに拡張する上で、量子確率的手法の有効性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.有向グラフのマンハッタン積および距離kグラフについて、一般論とともに具体例の計算が蓄積され、当初の予想以上に興味深い課題が見出されてきた。パスグラフのマンハッタン積に関して、固有値分布を完全に決定することが目下の最大の目標である。直積以外の積グラフの距離kグラフのスペクトル解析が自然な問題として表れてきた。 2.ネットワーク上の確率過程については、特に、グラフのスペクトル解析を通して、量子ウォークと古典的ランダムウォークについて研究が進展した。スパイダーネットに限らず、より一般のネットワークに対して、できるだけ統一的な取り扱いを図ることの重要性が増してきた。さらに、グラフ上のダイナミクスとしては偏微分方程式によるアプローチがあり、この方面の知見を取り入れるための研究交流を開始した。 3.ランダム・グラフやグラフ・ダイナミクスに関しては、既存の成果を見直すにとどまっており、次年度以降に本格的に取り組むこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.複雑ネットワークのスペクトル解析 前年度までの成果を引き継いで、マンハッタン積・距離kグラフ・閾値モデル・ランダムグラフなどの具体例を通して、量子確率論的手法を洗練しながら、そのスペクトルを導出し分類論を精密化する。 2.頂点間統計量の確率解析 さまざまな複雑ネットワークに対して蓄積されたスペクトル解析の結果を利用しながら、ネットワークに付随する確率過程(ランダム・ウォーク、パーコレーション、接触過程、長時間相関をもつ多重マルコフ過程など)に付随した頂点間統計量の漸近挙動を明らかにする。偏微分方程式によって記述されるダイナミクスも視野に入れ、スペクトルの特徴を把握する。 3.スペクトル・モデルの提案と応用 上記で得られる成果に量子確率論を組み合わせることで、多様なアプローチを確保し、スペクトル・モデルの構成問題に挑戦する。つまり、頂点間統計量からネットワークの粗構造と階層構造を推定し、モデル化の方法論を構築することが目標である。これまで成功している量子確率論的手法では1 変数直交多項式が中心的役割を果たしてきたといえる。上記の研究を通して、多変数直交多項式を取り込み、量子確率論的手法をさらに拡張することも視野に入る。さらに、生物学や環境科学を遠望して、応用系研究者を交えた研究交流を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費(成果発表(海外)1回、研究打ち合わせ2回程度)に40万円、図書・計算機関係消耗品に25万円、人件費謝金に10万円、その他5万円を予定している。
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Research Products
(10 results)