2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23654050
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅田 亨 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00176728)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 五角数定理 / 超幾何級数 / 表現論 / 不変式論 / q-analogue |
Research Abstract |
五角数定理とその一般化は,二つの無限サイズの行列に関する差分関係式(五角数方程式)の解から得られる.この二つのトレースの間に差というアノマリーの生じることがポイントである.この五角数方程式の解を具体的に書くことに関係して,基本対称式の特殊化である第1種 Stirling 数,および完全斉次対称式の特殊化である第2種 Stirling 数が現われる.特に後者における特殊化という事実は自明ではなく,また五角数方程式の解に関係するが,その際に一般のパラメータをあたかも特殊な数列のなすパラメータかのごとく扱う手法を開発して,解の具体的表示に進展を得た.一方,有限アーベル群もしくはその類似に対する基本定理を,表現論的に証明するという手法を分析すると,それが場の理論における第二量子化やアデール化の雛型になっていることが判り,Bose-Fermi 対応や佐藤のソリトン理論と結びつく.ここに現われるアノマリーは真空偏極によるものであり,留数とも関係が深い.この二つのアノマリーには直接的な関係があると思われる.実際,P. Dirac は著書『ヒルベルト空間のスピノル』において,この種のアノマリーを論じており,二つのアノマリーは同一起源であるように見える.しかし,数学的にその部分が明確化されている訳ではない.本研究では,これらのアノマリーの由来を,より広い見地から探り,超幾何級数など特殊函数が,この機構の中に現出する理由を明らかにしたいと考えているが,上記の表現論的視点は,加群を標準的なトーラス類似物(典型的には商体を元の環で割った加群:非可換でも構わない)への準同型が,核函数の相関函数(表現論的には球函数,或いは行列要素)として捉えられることを明らかにしたので,研究の目的に近づく大きな手がかりを得たと言える.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の進捗状況の説明からわかるように,研究の大きな目的に対しては,充分な手がかりを得て,今後の研究の具体的計画がより明確になった.一方,最も古典的で具体的に知られた等式を,一般五角数方程式を通じて得るという当初の計画については,かなりの進展を見たものの,最終的な段階には達していない.しかし,これも今年度得た視点もヒントになるので,そちらの計画についてもそれなりの進捗をみたと考えられる.また,五角数定理と直接には関係しているようには見えない Capelli 恒等式だが,土台の表現が既約でないような場合に,基底の順序の取り替えという新たな問題が生まれてきたが,それが五角数定理のアノマリーに関係するかもしれないという兆候を発見した.相互法則とも,或いはつながる新しい視点を得たことも,今後の研究に大いに資するものである.
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の研究状況から判るように,研究の目的は,アノマリーの解釈と,その具体的表示に集約されつつある.これを扱う,場の理論的な定式化は,例えば,佐藤理論の無限次元グラスマン多様体などのすでに確立された手法がある.しかし,最近,Capelli 型恒等式を一般化するに当たっての強力な道具である「伊藤代数」(連携研修者の伊藤稔氏の作り出したもの)について,研究代表者は,無限テンソル積による実現を見いだした.そこには,非可換版の留数のようなものも取り込めるし,上記の有限アーベル群の基本定理の表現論的証明を雛型とする,トーラス類似物の,おり大がかりな対応物が現われる.五角数定理のアノマリーの由来は,差分作用素が可逆でない点にあるとも言えるが,無限テンソル積に於いても可逆でない環準同型が基本的役割を果たす.これらのつながりを明確化することで,「五角数定理」を種(=萌芽)とした,表現論・不変式論による統一的パースペクティブを得るという「挑戦的」な研究を実現していく.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
いままでに得た視点と,その発展について,連携研究者である野海正俊氏および伊藤稔氏と研究連絡をとる.さらにこの研究に関連する国内外の研究者を選び,小規模なワークショップを開くことで,議論を深める.コンピュータによる計算を含む考察については,初年度での蓄積ではまだ充分とは言えないので,その方面での攻略を充実させる.また,物理学的な視点については,そこから学ぶべき点も多いので,そちらも取り入れる.それは,古典的には代数函数論が電磁気学という生き生きとした描像を持っている点(B. Riemann による)から,その量子力学版であるゲージ理論に至る広い領域であるが,素朴な電磁気学だけでも数学的に見直すことは本研究にとって生産的である.歴史的な論文も重要である.そもそも本来の「五角数定理」は Euler に溯るが,古い論文を現代的視点から見直したのが,本研究の出発点であるから,Capelli や Boole, Wronski, その他充分光の当たっていない文献についても調べる.
|