2011 Fiscal Year Research-status Report
強相関電子系のための全電子第一原理GWΓコードの開発
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23654115
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大野 かおる 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40185343)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 多体摂動論 / 強相関系 / グリーン関数 / GWΓ法 / 第一原理計算 / バーテックス補正 / プログラム開発 / 準粒子スペクトル |
Research Abstract |
強相関系の電子状態を第一原理から正確に扱うことは困難とされてきた。いわゆるMott絶縁体と呼ばれる種類の電子系に対しては既存の第一原理計算コードでは歯が立たない。多体摂動論に基づいて自己エネルギーのFock交換項に動的な遮蔽効果を取り入れるGW近似は半導体のエネルギーギャップを正確に与えるものの、強相関電子系に対しては無力である。GW近似をベースに2粒子グリーン関数に対するBethe-Salpeter方程式を解いて光吸収スペクトルを求める世界最先端の第一原理計算技術があるが、研究代表者は我が国で初めてこの計算コードを開発し、2電子イオン化エネルギースペクトル、on-site Coulomb energy U、Augerスペクトルの計算にも世界で初めて応用した実績をもつ。 本研究では、我々が開発してきたこの全電子混合基底GW+Bethe-Salpeter計算プログラムをまず自己無撞着計算ができるように改良することに成功した。Na2クラスターなどでone-shot G0W0近似、グリーン関数Gのみを繰り込むGW0近似、GもWも繰り込むGW近似の試験計算を行い、日本物理学会などで発表した。 GW自己エネルギーのω積分を回避するために、Hybertsen-LouieのGPPモデルだけでなく、von der Linden-Horschのプラズモンポールモデル(PPM)、Engel-FaridのPPMをインストールすることに成功した。これにより、格段の計算スピードの高速化を図ることができた。 さらに、分極関数および自己エネルギーの評価において多数の空状態の和を評価するのを回避するために、射影演算子の方法を取り入れ、このようにしても計算結果が変わらないことを確かめた。これによりプログラムの大幅な改良に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
我々が開発してきた全電子混合基底GW+Bethe-Salpeter計算プログラムを、当初計画通り、自己無撞着計算ができるように改良することに成功した。従来のGW法のプログラムでは、行列要素として、LDA計算で得られたKohn-Sham波動関数でサンドイッチしたものを計算していたが、改良したプログラムでは、全ての行列要素を原子軌道関数と平面波の混合基底でサンドイッチしたものを計算するようにした。これにより、LDA計算と同様に、行列の対角化→波動関数の構築→電子密度の構築→ハートレー・ポテンシャルの計算→フォック項の行列要素の計算、GW相関項の行列要素の計算という流れを繰り返すことにより、自己無撞着GW計算が可能となった。プログラムでは、フラグにより、one-shot G0W0近似、グリーン関数Gのみを繰り込むGW0近似、GもWも繰り込むGW近似を選べるようになっている。Na2クラスターなどでこれらの試験計算を行い、日本物理学会などで発表した。 GW自己エネルギーのω積分を回避するために、Hybertsen-LouieのGPPモデルだけでなく、von der Linden-Horschのプラズモンポールモデル(PPM)、Engel-FaridのPPMをインストールすることに成功した。これにより、格段の計算スピードの高速化を図ることができた。これは当初計画にはなかったことである。 さらに、分極関数および自己エネルギーの評価において多数の空状態の和を評価するのを回避するために、射影演算子の方法を取り入れ、このようにしても計算結果が変わらないことを確かめた。これによりプログラムの大幅な改良に成功した。これも当初計画にはなかったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発中の全電子第一原理GWΓ計算コードは、強相関系の電子状態を極めて精密に取り扱うことが可能となるはずのものである。これは言うまでもなく新しい原理の発展に結びつく。このコードにより、ワード恒等式などを満足する信頼性の高い計算結果を得ることが可能となる。申請者の全電子混合基底法は、Hartree-FockレベルでMg原子のビリアル比2.0000を達成しており、これをベースに開発するGWΓコードの最終目標は強相関系での誤差1%以内の計算精度である。本研究で提案するGWΓ計算フローと主要な全てのFeynman図形を無限次まで取り込むというアイデアは極めて斬新な着想によるものであり、全電子第一原理GW- BSE計算コードを完成した申請者の研究実績を本研究に集中させる。 当初計画通り、自己無撞着GW計算にバーテックス補正を取り入れる計算ができるように全電子混合基底GW+Bethe-Salpeterプログラムを改良する。方法としては自己エネルギーのω依存性をきちんと考慮するとともに、同時にバーテックス補正もきちんと取り入れ、ワード恒等式をしっかりと満たすようにする。これにより初めて世界初の誤差1%以内の高精度計算が可能になるものと考えている。使用するアルゴリズムおよびプログラムの方針は既に立っており、既にその方向でプログラムの改良に取り組みつつある。プログラムのインプリメントとともに、膨大な数の試験実行とデバッグ作業が必要なため、これまで通り、横浜国立大学大学院工学府博士課程に在籍中で研究代表者の研究室所属の大学院生にプログラムの作成の補助を依頼して作業を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これらの研究を推進するに当たり、以下のように研究費を使用する計画である。(1).新しい計算手法(方法論)、具体的な計算アルゴリズム、そして計算結果をまとめて報告書やレポート、英文学術論文誌に投稿するための原稿を作成するために研究室にネットワーク・プリンターを購入する。本研究で使用するプリンターはLinuxマシンから直接出力できる必要があるので、既存のプリンターは使うことができない。あるいは、新しいプリンターを購入する代わりに、既存のプリンターにPostScriptインターフェースとハードディスクを増設することで対応する。費用的にはどちらも変わらないので、どちらが良いか検討して相応しい方を購入する。(2).また、これに関連して、印刷費やトナー代(ドラムカートリッジ代を含む)が必要である。(3).本研究で得られる計算結果を可視化するためのPC用のソフトウェアも若干購入する必要がある。(4).本研究の結果を一流の学術論文誌に投稿・掲載するための論文投稿料(掲載料・別刷料金を含む)が必要である。(5).海外での国際会議や国内会議(学会、研究会)での発表を行うための旅費(それぞれ、研究代表者および大学院生、各1名分)が必要である。(6).これまで通り大学院生にプログラム作成補助の謝金を支払う。(7).他大学の全国共同利用の大型計算機(スーパーコンピュータ)の利用負担金が必要である。
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