2011 Fiscal Year Research-status Report
AdS/CFT対応による非平衡定常物理学への新アプローチ
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23654132
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 真 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 特定研究員(科学研究) (00360610)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | AdS/CFT対応 / 非平衡定常状態 / 非線形電気伝導 |
Research Abstract |
本年度は、AdS/CFT対応を用いて、強相関電荷系における非バリスティックな非線形電気伝導、特にその負性微分抵抗とその振る舞いを系統的に研究した。その結果、1)非平衡定常状態における熱力学ポテンシャルの定義を提案し、さらに2)非平衡定常状態のみで見られる新規な相転移および臨界点・臨界現象を発見した。1)非平衡定常状態における熱力学ポテンシャルの定義の提案 AdS/CFT対応を用いると、非バリスティックな定常電流の存在する強相関電荷系の物理量、すなわち非平衡定常状態における物理量の計算を、古典重力理論の解析力学を用いて行うことが可能となる場合がある。古典重力理論側の解析力学に基づく計算は、基本的に変分原理に立脚しており、この意味で変分原理の拠り所となる有効作用の概念が明確となる。本研究ではこのAdS/CFT対応の顕著な性質を利用し、重力理論側の変分原理からの類推を用いて、非平衡定常状態における熱力学ポテンシャルを提案し、かつ具体的に計算することに成功した。2)新規な非平衡相転移および非平衡臨界点の発見 定常電流の流れる非平衡定常状態にあるゲージ理論プラズマ(強相関電荷系)が接する熱浴の温度を変化させながら、系の非線形電気伝導を系統的に調べたところ、負性微分抵抗から正の微分抵抗への転移がクロスオーバーではなく二次相転移、あるいは一次相転移となりうることを発見した。また二次相転移点(臨界点)近傍では、伝導度などの物理量の振る舞いにスケーリング則が存在し、臨界指数を定義できることも見出した。これらの現象は、全て、定常電流存在下のみで発現する非平衡現象であり、ここで発見されたものは非平衡相転移・非平衡臨界点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究目的は1)AdS/CFT対応を用いて強相関電荷系における非バリスティックな負性微分抵抗を解析し、その発現メカニズム、負性微分抵抗由来の電流発振現象など、関連する物理現象を明らかにする、2)非平衡定常系に対し提案されている各種関係式やオンサガーの変分原理を、平衡から離れた量子系においてAdS/CFT対応の手法で検証し一般化する、の2点であった。このうち、1)に関しては、負性微分抵抗に関わる新規な非平衡相転移・非平衡臨界点の発見がなされたことにより「関連する物理現象」の一端が明らかになったと言える。さらに非平衡定常状態における熱力学ポテンシャルを定義できたことにより、2)の非平衡定常系における変分原理の解明に大きく近づいたことになる。上記を総合すると、研究目的の1/3程度以上が既に達成されたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、今までに発見した非平衡相転移・非平衡臨界点について詳細に調査する。たとえば非平衡臨界点における可能な臨界指数全てを計算し、それらの間に平衡系と同様のスケーリング関係式が成立するのかどうか調べる。さらに非平衡定常状態まわりの揺らぎの解析に着手し、揺動散逸定理は非平衡定常状態においてどのように変更を受けているのか、清水・弓削の和則など各種関係式が成立しているかどうか、などの検証も行う。また、発見した非平衡相転移を現象論的に記述する平均場理論などの構築も試みる。さらに、発見した非平衡相転移を実験的に検証して頂くために、実験物理学の専門家に積極的に働きかけ、意見交換を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は引き続き、研究発表、意見交換のための旅費、必要な知識を得るための文献購入費、などに研究費を使用する。さらに、計算に必要なコンピュータの性能向上のため、最新のコンピュータの購入を考えている。
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