2012 Fiscal Year Research-status Report
リウビル演算子の固有値スペクトルに基づいた古典的非可積分力学系の分析
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23654136
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
野場 賢一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30316012)
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Keywords | 国際研究者交流(米国) / 非可積分系 / リウビル演算子 / 固有値問題 |
Research Abstract |
古典的リウビル演算子の固有値問題という観点から、古典力学系の少数自由度非可積分系の典型的な例である太陽・小惑星・木星の制限三体問題について理論的解析を行った。太陽系の火星と木星の間に数多く存在している小惑星は、特定の長半径ではほとんど存在せず、その分布は縞構造となっていることが知られている。小惑星が分布しない長半径は、木星と小惑星との公転周期の比が2:1や3:1という簡単な整数比となる共鳴点に位置しているため、従来の軌跡を取り扱う解析においては木星の摂動の効果を取り入れるのが困難であった。しかし本研究では古典力学的な状態を取扱っているため、量子力学的な摂動手法を援用することにより、木星の摂動の効果を適切に取り入れることができる。 当該年度の研究におけるもっとも大きな進歩は、小惑星の離心率は小さいという仮定のもとで、2:1共鳴点において、木星の摂動を記述するリウビル演算子の固有値問題の解の解析的な表式を得ることに成功したことである。一般に共鳴点における固有値方程式は2種類の一般化運動量に関する偏微分方程式となり解析解を求めることは難しいが、2:1共鳴点においては偏微分方程式を2つの常微分方程式に帰着させることができる。これを利用して近似的な解析解を得ることができた。 またリウビル演算子のエルミート性の条件と固有関数の局在性の要請から、固有値は離散的な値をとり、その絶対値は下限をもつことがわかった。 また得られたリウビル演算子の固有値、固有関数を用いて、適当な初期条件を与えた分布関数の時間発展の計算を行った。その計算によって、はじめ共鳴点に存在していた小惑星の分布関数は振動を伴って減衰し、数千年のオーダーで消滅することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の古典力学系の研究では位相空間における「軌跡」が取り扱われてきたのに対し、本研究では古典力学的「状態」を取り扱っている。この状態は、位相空間での分布関数として表現され、完全直交系をなすリウビル演算子の固有関数によって展開することが可能である。したがって、2:1共鳴点におけるリウビル演算子の固有関数が解析的に求まったことは、本研究課題の遂行において大きな前進であると言える。またその結果を用いて評価した分布関数の減衰の時間スケールは、実際に観測可能な現象に関してわれわれの理論から得られた定量的な予言ということができる。 一方で2:1共鳴以外の共鳴点においては、固有値方程式の解析解を求めるのは、さらなる近似なしでは困難であることが判明した。 また太陽系の小惑星以外の系、例えば土星の環を対象とした解析には手をつけることができなかった。 以上より現時点で本研究課題は、完全に予定通りとは言えないが、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では太陽系の小惑星の2:1共鳴点におけるリウビル演算子の固有値問題の解の解析的な表現を得たが、それ以外の3:1共鳴点や5:2共鳴点における固有値方程式はやや複雑な構造をしており、解析的な解が得られそうにないことが判明した。そのため2:1共鳴点以外の共鳴点について解析を進めるためには、離心率が小さいという以外にも、さらなる近似が必要になる。そこで解析的な近似解を求める努力をすると同時に、近似なしの偏微分方程式を数値的に解き、それらの結果を比較・検討しながら研究を進めることを考えている。 現在、数値計算の専門家と連絡を取り合って、対象となっている偏微分方程式の数値的な解法について議論をはじめたところである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は日本在住の研究代表者と米国在住の研究協力者が共同で行っている研究である。そのためお互いを訪問して議論を重ねながら研究を推進していくことが重要である。また最近の研究結果より、数値計算の専門家と議論しながら研究を進める必要性が生じている。 当該年度は本研究費によって研究協力者を招聘する予定だったが、研究協力者が他の用事で来日し、その期間に議論を行うことができたために、日米間の渡航費が不要となった。そのため当該年度の研究費を次年度に繰り越すこととした。 繰り越した研究費の用途としては、研究代表者と研究協力者が互いに訪問しあうための旅費、および数値計算の専門家を訪問する旅費または招聘する謝金として支出することを計画している。
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Research Products
(4 results)