2012 Fiscal Year Research-status Report
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23654139
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
村上 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (50291092)
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Keywords | 生命モデル / フレーリッヒ / 細胞 / マイクロ波 / 非平衡 / 非線形 |
Research Abstract |
本研究では、細胞モデルとして逆ミセルを使用する。生体高分子の機能研究は通常生体高分子希薄水溶液が用いられる。細胞中では様々な生体高分子が高濃度で存在するから、希薄溶液とは環境が異なる。これは、細胞中の混雑効果と呼ばれ、生体高分子の機能に重要な役割を果たすのではないかと注目されている。逆ミセルはナノ空間に拘束された微少液滴を形成し、細胞と類似の環境を実現する。本年度は昨年に引き続き、逆ミセルの物性の温度変化測定を実施した。色素分子プローブを逆ミセル内の微少水滴内に導入し、色素の吸収スペクトルの温度変化を室温から溶媒である油の融点(約170K)まで測定し、配位座標モデルによるスペクトル解析を行った。その結果、温度を下げた時、逆ミセルサイズに依存したある温度で、それより上の温度では凍結していた水の拡散的な運動が活性化することが分かった。また、その活性化温度は、先行研究による逆ミセルサイズが収縮する温度とよく対応している。これらの結果は、この活性化温度で逆ミセル中から水の流出が起こり、流出した水では逆ミセルによる水の運動の拘束がないために、水の運動の活性化が起こると考えるとよく説明できる(Physical Review Lettersに投稿中)。今回観測された現象は、細胞の崩壊のメカニズムを考える時に、重要な情報を与えるかもしれない。さらに、逆ミセル中の水のマイクロ波応答の温度変化を調べた。室温付近で、逆ミセル内の水のマイクロ波応答がバルク水に比べて温度に敏感に依存することが分かった。この結果は、今後の実験に温度変化測定が必要であることを示す。一方、高強度マイクロ波照射のための光源として、ニオブ酸リチウム結晶と波面傾斜法を用いたマイクロ波光源のための光学系構築の準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H24年度の研究計画は(1)波長可変マイクロ波発生装置の構築、(2)紫外・可視時間分解吸収分光装置の構築 及び (3)前年度の成果発表である。(1)に関しては現在構築中で、(2)は実施していない。(3)は、結果を査読付き学術雑誌に投稿した。研究実績の概要で述べたように、引き続き実施した試料の物性研究で今後の研究のための有用な結果を得たことを考慮して、本年度の研究計画の達成度は約6割と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
高強度マイクロ波発生装置を構築し、それをポンプ光源とした時間分解吸収分光システムを構築する。それを、色素分子導入逆ミセルや蛋白質導入逆ミセル等に適用する。そして、マイクロ波照射下で色素や蛋白質の発色団の吸収スペクトルを測定し、系にコヒーレントな状態が発生するかどうかを、逆ミセルサイズや温度を変えながら調べる。もし、コヒーレント状態が確認されたならば、その発生及び減衰のダイナミクスを時間分解測定で調べる。そして、高分子濃厚溶液でも同様の実験を行い、界面活性剤により形成された膜構造による閉じこめ効果がコヒーレント状態の発生に与える役割を明らかにする。一方で、周波数可変マイクロ波発生装置を完成させ、そのようなコヒーレント状態の発生に照射周波数依存性があるかどうかを調べる。最後にマイクロ波照射がモデル反応系の反応過程に及ぼす効果を調べる。具体的な研究項目は以下の通りである。1.フェムト秒レーザーを光源として、ニオブ酸リチウム結晶と波面傾斜法を用いて、高強度マイクロ波発生装置を構築する。2.時間分解吸収分光装置を構築する。3.マイクロ波ポンプ時間分解吸収分光を色素分子導入逆ミセル、色素蛋白質導入逆ミセルなどを対象に実施する。温度、逆ミセルサイズ及び照射強度依存性を調べる。4.プローブ色素分子導入高分子濃厚溶液を対象に高分子濃度を変えながら、3と同様の実験を行う。5.フェムト秒レーザーの時間波形制御技術を使った方法により、波長可変マイクロ波発生装置を構築し、波長可変下で3.の測定を行う。6.逆ミセル内で(生)化学反応系を構築し、反応過程へのマイクロ波照射効果を調べる。7.適宜、研究結果をまとめ、成果発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に分光装置の開発を行うために、今年度の研究費を次年度に繰り越した。次年度の研究費の使用計画は以下の通りである。1.測定装置構築用消耗品(マイクロ波ポンプ白色光プローブ時間分解分光装置構築のための光学部品などの消耗品に使用):1300(千円)2.温度変化測定用クライオスタット構築消耗品:800(千円)3.試料調製用薬品などの物品費(逆ミセル用界面活性剤分子、有機溶媒、水分計試薬やガラス器具等の購入に使用):228(千円)4.旅費及びその他(学会参加のための旅費、参加費等に支出する。国内学会に3回参加する予定):150(千円)
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