2011 Fiscal Year Research-status Report
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23654141
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
上坂 友洋 独立行政法人理化学研究所, 上坂スピン・アイソスピン研究室, 主任研究員 (60322020)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 核スピン偏極 / 光励起三重項状態 |
Research Abstract |
常温における炭素13核の超偏極生成を目的とし、今年度は常温における陽子偏極生成の基礎研究を行った。試料としては、ペンタセン分子を0.1 mol%ドープしたパラ-ターフェニル結晶を用いた。 常温では偏極緩和時間が数分以下と短いため、十分な強度を持つ励起光を照射することが高い偏極度を生成するために必要である。そのため、まずペンタセン分子の励起に用いるレーザー光のパルス構造と強度の最適化を行った。パルスのデューティー比を5ー50%の範囲で、繰り返し周波数を0.75ー10 kHzの範囲で変化させ、偏極率の計測を行った。その結果高いデューティー比での偏極率が我々の理論予想に比べ大きく減少しているという結果を得た。この傾向はレーザー光の強度が大きい場合より顕著であった。その他の測定結果とも比較した結果、レーザー光照射による試料の温度上昇が偏極緩和率を大きくさせていることが偏極率減少の原因と結論づけた。現在0℃付近で温度を一定化させる機構を準備中であり、来年度大強度レーザー光照射により高い陽子偏極度生成を目指す。 更に、光照射後の三重項状態の電子偏極度消失機構についても基礎的なデータを収集した。三重項状態の電子偏極度は、偏極緩和と基底状態への脱励起の二つのプロセスにより消失する。我々の得た結果は、三重項状態の電子偏極度が主として基底状態への脱励起により消失するというものであった。この結果は、偏極緩和が主要プロセスとなっている100ケルビンでの実験結果とは大きく異なっている。これは、熱励起により基底状態の振動バンド励起され、三重項状態と結合し易くなるためと考えられる。 今年度の最後に、陽子から炭素13核への偏極移行に用いる二重共鳴装置のテストを行ったが、偏極度が小さいため炭素13核の偏極観測には至らなかった。来年度陽子偏極度を向上させた後、再度炭素13核の偏極生成に挑戦する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
常温近辺での光励起三重項状態については、これまであまり研究がなされておらず、予想外の現象に直面した。そのため、炭素13核の超偏極生成には至っていないが、今年度の研究で得た知見は今後大きな偏極度生成に役立つものであり、全体としては順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により、試料の温度を0℃前後に維持することが大きな陽子生成に重要であるという知見を得た。今年度は、温度コントロール機構を導入し、レーザー光強度と温度の最適化をはかる。これにより、陽子偏極度の向上が可能となり、常温で10%以上の偏極度生成が可能となると予想される。 次に、初年度に準備した二重共鳴装置を用いて、陽子偏極を炭素13核に移行する。ここで、炭素13核のスピン緩和時間や陽子-炭素13核のスピン接触時間などの基礎データも同時に測定する。 生体分子中への応用については、引き続き有機化学研究者との議論を行い、ホストおよびゲスト分子の選定を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は常温での偏極緩和機構等について新しい知見を得られたなど進展があった反面、新しいホスト・ゲスト分子の探索まで手を広げることができず次年度使用額32,979円が生じた。 次年度は、次年度使用額と次年度配分額を合わせて、偏極試料の購入( 33万円)、実験補助謝金(30万円)の支出を行う。また、12月にスイス・PSI研究所で行われる研究会に出席し、成果発表を行うとともに、三重項偏極の最先端研究について情報収集を行う(旅費 30万円)。
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Research Products
(2 results)