2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23654141
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
上坂 友洋 独立行政法人理化学研究所, 上坂スピン・アイソスピン研究室, 主任研究員 (60322020)
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Keywords | 核スピン偏極 / 光励起三重項状態 / パラ・ターフェニル |
Research Abstract |
本研究は、常温における陽子の高偏極を生成し、それを炭素13の超偏極に適用することを目的としている。 初年度に行った研究から、レーザー照射による温度上昇が常温における陽子偏極度抑制の主たる要因であることを明らかにした。今年度はそれを受けて、冷却窒素ガスによる試料冷却機構を導入した。この機構を用い、まず基礎的なデータとして、300ー360ケルビンでの陽子偏極緩和率を測定した。これまで偏極緩和率は常温以下の温度でしか測定例がなく、200ー300ケルビンの間で温度とともに単調減少することが知られていた。今回測定した新しいデータにより、280ー330ケルビン付近で偏極緩和率はほぼ一定の極小値を取り、340ケルビンを超えたところから急激に上昇することが明らかとなった。そこで、パラ-ターフェニルにペンタセンを0.05%ドープした試料を、280ケルビン程度に保持して陽子偏極生成したところ、レーザー光の平均照射パワーが1.2 Wの時に冷却機構導入前に比べて7倍の偏極生成率が達成できることが明らかになった。最終到達偏極度としては、以前の測定(陽子偏極度4.8%)に比べて3倍程度の増倍が得られた。(S. Sakaguchi, T. Uesaka et al., Nucl. Instrum. Methods B 出版予定) 陽子偏極度の大幅な増大が確認されたので、これを用いて炭素13への偏極移行実験に入ったが、その直後、偏極移行に用いるマイクロ波増幅器の故障が生じ、実験を中断せざるを得なくなった。 本研究により、常温における陽子偏極の基本的な研究は大きく進み、その結果を受けて以前の3倍から10倍の陽子偏極度を得られることが分かったのは大きな成果である。装置故障のため炭素13核の超偏極生成には至らなかったが、装置修理完了後超偏極生成実験に再挑戦するば、大きな炭素13核偏極が観測されると予想される。
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