2011 Fiscal Year Research-status Report
海洋で不規則な渦から秩序ある平均流が発生してくる仕組みの包括的研究
Project/Area Number |
23654167
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 章 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (60091401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水田 元太 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (30301948)
平原 幹俊 気象庁気象研究所, 海洋研究部, 主任研究官 (70354545)
中野 英之 気象庁気象研究所, 海洋研究部, 主任研究官 (60370334)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 縞状東西流 / 再循環流 / 絶対渦度零の平均剪断流 / 傾圧不安定 / 運動量配分 / 水輸送・熱輸送 / 拡散性伸縮 |
Research Abstract |
1)非成層回転系乱流における絶対渦度零の平均剪断流の形成について.既往の研究を調べたがはっきりした染みは分かっていない.今回,非成層回転流体と非回転密度成層流体の類比で考えると,回転系で絶対渦度零の平均剪断流は,成層系で謂えば中立成層に対応することが分かった.つまり,絶対渦度零の剪断流とは、不安定を孕む系がぎりぎりの中立状態を維持していることを表すらしい. 2)縞状東西流の形成因について.既往の研究の総説を行うとともに,これまでに行った数値実験を基に考察を加えた.中規模渦が強勢になる高解像度模型でないと数値実験で縞状東西流が現れない.このことからすると Rhines 効果という解釈が有力視されるが,諸説あってはっきりしない.縞状東西流が渦位の階段状分布を表すとすれば 1) との類比が考えられる. 3)続流域再循環の力学について.再循環に的を絞った流入流出流の数値実験が成功し,以下のことが分かった.表層では続流域の放射するロスビー波が続流域・再循環域と内部領域の渦位分布を接続するのに大きな役割を果たしている.また,深層では渦が渦位を赤道側に運んでいるらしい.渦位一様化仮説の妥当性ははっきりしなかった. 4)傾圧不安定の作る平均流と傾圧不安定の働き.当初考えていなかった問題だが,本課題全般に関係することが分かってきた.純化した状況で傾圧不安定を論じ,解釈を容易にする整った方程式(正準方程式)を導いた.これによれば傾圧不安定で増幅する擾乱が変形半径以上の規模を持つことなど自明になる.また傾圧不安定に関係して大循環模型で頻用される手法に G-M 径数表現がある.この径数表現は,熱塩循環空間構造の成り立ちを理解する上で極めて基本的な拡散性伸縮と関係づけられることが分かった.これは望外の成果と考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に書いたとおり,本課題で扱う三現象(三課題)は,海洋分野で長年の懸案となっている難問である.簡単に解決するものではない.従って,本課題では三現象を個別問題として扱わず類似性と差異を明らかにしつつ,三個別現象全体としての解明を目指している.全容解明に至らずとも部分解明が出来れば良しとし,関連する問題を堀り起こして課題を掘り下げることにより今後の研究に方向性を与えることを目的とする. その意味では,今年度に傾圧不安定問題を課題に組み込み成果を上げたことを自己評価したい.傾圧不安定の増幅の仕組み,その働き,平均流を作る仕組みは,当初から想定している三課題に関係しているからである.一つ注意しておきたいのは,本課題の中心主題である渦による運動量分配(平均流形成)問題は微妙で難しいということである.これは回転系において単純な運動量保存が成り立たないことに起因する.傾圧不安定は課題全体の原型といえる様々な問題を提供する.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り本課題では力学に裏打ちされた着想と結果の適切な解釈が鍵である.その意味で,本課題では,全体の研究会と研究打ち合わせ(結果の検討とアイディア交換)が中心になる.三現象の研究は今年度と同様に進めていく.とくに縞状東西流の問題は海神効果との関係でも論じていくべき課題である.但し数値実験に終始してはつまらない.力学に基づく新たな着想が必要である. また,今年度,新たに掘り起こした傾圧不安定の働きとその作る平均流という主題は様々な意味で原型となる問題を提供する.他の三現象の理解に資する基本的知見を与えることも期待される.そこで,次年度以降は傾圧不安定による平均流の維持という問題も四番目の研究課題に加える. なお,傾圧不安定の作る平均流は東西に周期的な海域で最も顕著になることが知られている.海洋でそのような場所は殆どない.唯一の例外が南大洋にあるドレーク海峡(南極回廊)である.南極回廊部を東向きに流れる南極周回流を維持する仕組み(傾圧不安定に伴う水輸送,熱輸送,並びに偏西風),回廊部という地形効果については不明なことが多い.その意味でも南大洋における水輸送,熱輸送,運動量輸送とこれを担う渦運動(傾圧不安定)の研究を進めていくことを考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初,数値実験のためにワークステーションを購入する計画であったが費用対効果を子細に検討し汎用計算機利用に切り替えた.また,会合を九大の研修所で行ったので会合費(旅費等)を節約できた.このようにして発生した未使用額を今年度に繰り越している. 研究推進方策に述べたように,本課題は,深い着想と適切な解釈が鍵であり,活動経費で必要になるのは全員の会同する研究会と個別の研究打ち合わせ(結果の検討とアイディア交換)が中心になる.そのための基本経費としてまず計算機使用料,全体会合費(500,000)がある.そのほか,個別の研究打合わせのための経費(380,000),および成果公表経費(学会発表および投稿料,印刷費;600,000)を予定している. 秋に予定している全体会合以外の,研究打ち合わせ経費と成果公開経費の手当は,個別課題の進捗状況を見ながら,代表者が分担者と相談しつつ臨機応変に適宜判断する.そのために基金種目であることを活用させてもらい効率よく経費を執行するつもりである.
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