2012 Fiscal Year Research-status Report
海洋で不規則な渦から秩序ある平均流が発生してくる仕組みの包括的研究
Project/Area Number |
23654167
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 章 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (60091401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水田 元太 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (30301948)
平原 幹俊 気象庁気象研究所, 海洋研究部, 主任研究官 (70354545)
中野 英之 気象庁気象研究所, 海洋研究部, 主任研究官 (60370334)
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Keywords | 縞状東西流 / 渦成再循環流 / 傾圧不安定 / ロスビー波 / 絶対渦度零の平均剪断流 / 運動流・エネルギー配分 / 水輸送・熱輸送 / 拡散性伸縮 |
Research Abstract |
本研究で対象とする現象のいくつかについて従来の問題点と本結果の概要を記す. 1) β面上の準地衡乱流における縞状東西流の形成機構について.順圧β面海洋で縞状東西流が現れる場合,二次元波数エネルギースペクトルで見ると原点付近に亜鈴形の空白波数域があるという.この空白域は順圧ロスビー波の分散関係で説明できるとする説がある.水平発散を考慮すると分散関係が変わるが,その場合も同様の空白域にが現れるかどうかを考察するため 1.5層準地衡模型を用いた数値実験を行った.しかし水平発散のある分散関係では説明できない空白域分布が見出された. 2)深層における渦成再循環流について.β面上の乱流渦度輸送(混合作用)が再循環域深層の四セル循環の仕組みとする説があった.しかし,再循環域先端部にロスビー波の放射を模した局在する振動源があれば二次流れが形成されることを三次元数値模型で示した.この流れは二次流として理論摂動計算によっても表現することができる. 3)傾圧不安定の働きと傾圧不安定による水輸送・熱輸送・平均流形成について.まず,従来誤解の多かった傾圧捻りの意味を明確にした.次に,傾圧不安定に伴う運動量輸送・熱輸送・拡散性伸縮の一見意外でしかも密接な関係を明らかにした.また,南大洋のような回廊部での傾圧不安定の数値実験を始めた.回廊の南北両端で密度を参照値に緩和する実験を行い渦の発生・成長および東西平均流の生じる過程を観察した.f面で渦は等方的に成長し回廊幅の規模の水平循環構造が現れる.β面では渦の南北方向の成長が制限され東西方向の平均流が生じることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「不規則な渦から秩序ある平均流が発生する仕組み」は海洋学・気象学・流体力学を通じて長年未解決のまま継承されて来た難問である.簡単に分かる筈はない.しかし本研究を進める過程で次第に分かってきた事がある.また従来提唱されてきた説の問題点自体が明確な形で浮かび上がってきたことも成果であり,概ね順調と自己評価している.(実績概要の要約だが)以下の様なことを明らかにできたからである. 1)β面順圧海洋乱流に現れる縞状東西流形成に際しその最終二次元波数エネルギースペクトルに現れる亜鈴形空白域を順圧ロスビー波の分散関係によるとする説明があるが,水平発散がある場合には成り立たない. 2)深層における渦成再循環流が,β面乱流の強い混合のためとする考え方があったが,寧ろ弱非線形なロスビー波の挙動による二次流とする説明の方が風成循環の場合を含めて普遍で妥当性がある(循環の符号と分布をよく説明できる)ことを示した. 3)誤解の多かった傾圧捻りの意味を疑いもなく明快に定式化したし,傾圧不安定の仕組みによる界面摩擦(運動量の上下交換),拡散性伸縮,南北熱輸送との意外とも思える密接な関係が純化した傾圧不安定模型から明らかにできた.
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Strategy for Future Research Activity |
1)β面海洋の縞状東西流の形成機構について.順圧と異なり水平発散があると,二次元波数エネルギースペクトル空白域をロスビー波の分散関係では説明できないことを明らかにした.今後はその理由を探るため各々複数回の実験により確率平均して信頼のできる二次元スペクトルを先ず得る.そうして結果の解釈および定式化を試みる. 2)再循環域における渦成再循環流について.再循環域先端部でロスビー波放射と見られる振動があれば渦成循環が形成されることを示した.ではその続流域先端部の振動(平均流場の不安定)の振幅や周波数を決める仕組みは何か.これを明らかにするため,三次元大循環模型と準地衡模型数値実験を並行して進め,両者の異同から力学を探る. 3)傾圧不安定の意味・働きとその作る平均流について.南大洋の回廊部で傾圧不安定が起きるような設定の下,平均流の形成を見る実験を始めたところである.実験設定(β、回廊幅、海底地形)を系統的に変えて得られる統計的定常状態を比較・解析する.また,海では南大洋にしか見られない回廊部(傾圧不安定が最も端的に表れる)における海流・温度分布はそれ自体極めて興味深い.その回廊部で起こる力学過程は渦成であるか否かを問わず明らかにしていきたい. 4)絶対渦度零の平均剪断流の問題を含め,上記の平均流形成機構を,地球流体特有の因子(自転,密度成層,[惑星・地形性]β)に基づき関連づける.例えば Rhines 効果と海神効果を組み合わせた実験を行い相互の関連を明らかにし,共通する仕組みを探る.これらは全て地球流体に現れる波動などによる運動量・エネルギー分配の働きで説明できると予想している.うまくいけば望外の成果になる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の経費節約により繰り越しを得た: 1)当初,数値模擬実験用ワークステーション購入を予定していたが精査したところ大型電算機使用料の方が対費用効果が高いことが分かり後者に切り替えた.2)九州大学応用力学研究所の全国共同利用研究課題の研究会に相乗りする形で会合し九州大学の研修施設を利用することにより旅費が節減できた. 次年度は最終年度に当たる.分担者が各自の研究結果を持ちより一堂に会して,結果の集約と新たな着想の交換を図ることを主とする研究形態は前年度までと同じである.ただ最終年度なので結果の総括・発表に重点を置く.そのため大型電算機使用料(120,000)と秋の全体会合(成果・経過報告,着想交換;357,000)に加えて,年度末の会合(本研究の総括と次の計画展望;450,000),研究打ち合わせのための相互訪問(210,000),および学会発表・論文投稿料・出版費(650,000)の支出を予定している.打ち合わせ旅費・学会発表旅費(含参加登録料)・投稿料は進捗状況を見ながら研究代表が案配するという形で執行する予定である.
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Research Products
(3 results)