2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23654201
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 晴彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60415164)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 非中性プラズマ / 反物質閉じ込め / dipole磁場配位 |
Research Abstract |
トロイダルdipole磁場配位における非中性プラズマは,極めて非一様な磁場中のプラズマの自己組織化という観点から,また電子陽電子プラズマの実験室研究を可能にするという観点からも興味深い研究対象である.本研究では,超伝導dipole磁場マグネットを備えた磁気圏型配位RT-1において,小型線源を使用して陽電子の入射と閉じ込めの基礎特性を解明する実験研究である.課題の一つは,ビーム強度が限られた陽電子をトロイダル配位に高効率で入射する方法を確立する事である.これに関して,RT-1においてNa22線源から供給される陽電子のエネルギー分布を考慮した軌道計算を行い,入射効率の評価を行った.その結果,線源付近で適切な強度の電場を印加する事で粒子の断熱不変量が非保存となり,軌道がカオス的となる事が明らかとなった.これにより,線源で再結合するまでの陽電子の軌道長が長くなると共に,磁気面を横切る経方向輸送が可能になり,閉じ込め領域へ進入する成分が発生する.RT-1の実際の配位で,線源から軌道が分離し安定な閉じ込め領域に進入する粒子の割合は最大で約13%と評価された.この値は,タングステン等の減速材を使用して低エネルギー化する既存の方法と比較して100倍以上の高い効率を示している. もう一つの重要な課題は,トロイダル配位に捕獲された陽電子の計測方法を確立する事である.これに関しては,RT-1の線源と対向するポートに可動式のターゲットプローブとコリメータを備えたNaI(Tl)検出器を導入した.プローブ上で発生する消滅γ線の計測により,10万個/秒程度の陽電子が線源から閉じ込め軌道へと進入しターゲット上で消滅した事が明らかになった.消滅陽電子数は,軌道計算結果と良い一致を示している.初年度の研究を通して,トロイダル配位における陽電子の入射と計測方法について基本的性質が明らかになったと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,トロイダルdipole磁場配位で反物質プラズマの高効率入射と安定閉じ込め方法を確立し,小型線源から供給される陽電子を使用して,生成したトロイダル陽電子群の性質を実験的に解明する事である.初年度には,RT-1装置において線源の導入と,シンチレータを用いた消滅陽電子の計測系の整備を行い,陽電子の入射特性と分布を明らかにする計画であった.次年度以降には,陽電子入射の高効率化,永久磁石を使用した小型装置を使用した陽電子の空間分布の精密測定,さらにRT-1における電子と陽電子の同時閉じ込めの実施を計画している.初年度には,計画通り1MBqのNa22線源をRT-1に導入し陽電子入射実験を開始した.新たに製作したターゲットプローブとNaI(Tl)シンチレータを導入し,消滅γ線計測により陽電子の消滅位置の評価が可能になった.当初,ターゲット上で発生する消滅γ線をノイズ成分から分離する事に困難があったが,鉛板によるコリメータの適用とMCAユニットを使用した波高分析により,ターゲット上で発生した511keVのγ線を高い確度で検出する事が可能になった.これにより,線源から供給される陽電子の13%程度はトロイダル方向に周回して,ポロイダルラーマー半径程度の範囲に分布する事が明らかになった.さらに,RT-1装置の配位に即した電磁場中で陽電子の軌道計算を行い,入射効率の詳細な評価とγ線計測との比較を行った.特に,陽電子の断熱不変量が非保存となり軌道がカオス的となり得る事を見出した.一連の研究を通して,トロイダル配位に線源から供給される陽電子を高効率で入射可能である事が明らかとなっており,初年度の研究目標をほぼ達成したものと考えられる.2年目以降に計画していた電場印加による入射光率の高効率化を一部前倒しして進めたが,実験的には予想される成果が得られておらず,今後の課題となっている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,電場印加によるトロイダル配位への陽電子入射の高効率化とコインシデンス計測による陽電子消滅位置の精密計測を可能にし,それによりRT-1で陽電子の長時間閉じ込めを実現する事を目指す.初年度に実施した軌道計算によれば,適切な電場印加を行う事により,陽電子の軌道をカオス的に修正し軌道長を延長すると共に,印加電場とRT-1のポロイダル磁場を使用してドリフト的な径方向輸送が実現される事が分かっている.そこで,線源の近傍に設置した電極及びRT-1のループアンテナを使用して陽電子の内向き輸送を実現し,閉じ込め領域内である程度の密度を持った陽電子雲を生成する事を目指す.また,印加する電磁場の効果を含む軌道計算と実験を比較する事により,将来的に大規模な線源を使用した時の陽電子プラズマの生成可能性について定量的な評価を行う計画である.上述の陽電子の径方向輸送の効果を正確に評価するためには,消滅γ線の発生位置を高精度で測定する事が必要である.これまでに実施した1台のNaI(Tl)シンチレータを用いた計測により,陽電子の大まかな空間分布は明らかとなっているが,現状では電場印加の効果を評価する精度には至っていない.そこで,2台のシンチレータを使用したコインシデンス計測を行う事で検出の位置精度を上げ,電場印加に応答して変化する陽電子雲の空間分布を高い精度で計測する事を計画している.コインシデンス計測モジュールは一部については昨年度に導入を終えており,これを使用してRT-1及び小型の永久磁石を使用した配位で,高校率の入射方法を開発する.トロイダル配位で陽電子の長時間閉じ込めを実現する事がもう一つの大きな課題である.上記で開発した高効率の入射法と高精度の消滅位置検出法を活用して,入射後の陽電子の軌道の時間発展を評価し,真空度や入射条件が陽電子の閉じ込め時間に与える影響を明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の最大の研究目標は陽電子の長時間閉じ込めの実現であり,そのために陽電子の消滅位置の精密計測が必要である.そこで,研究費の使途としては,主に陽電子の消滅γ線のコインシデンス計測を行うための計測モジュール及び周辺機器導入のための物品費と,学会等で研究成果を発表するための旅費として使用する事を計画している.昨年度より,陽電子消滅位置を高精度で検出するためのコインシデンス計測の準備を進めている.従来,シンチレータ検出器のプリアンプ出力に対して直接波高分析を行う事で511keVの消滅γ線の検出が可能であり,これにより陽電子雲の形状の概略を明らかにしてきた.シンチレータ検出器が超伝導マグネットに近い場合には磁気シールドの効果が十分でなく,プリアンプからの出力ではコインシデンス計測に必要な信号強度が得られない事が分かっている.また,閉じ込め領域内の様々な位置で計測を行うためには,現状の計測系ではケーブル長等の制限が大きい問題があった.このため,磁気シールドを強化すると共に,シンチレータのプリアンプ出力に適用可能な増幅器を導入し,陽電子の空間分布の精密な計測を可能にする.この他に,計測用電子部品と真空部品の購入を計画している.また,得られた成果を8月にドイツで開催される非中性プラズマワークショップで報告する予定であり,そのための旅費の支出を計画している.
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Research Products
(3 results)