2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23654201
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 晴彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60415164)
|
Keywords | 非中性プラズマ / 反物質プラズマ / ダイポール磁場配位 / 陽電子閉じ込め / カオス |
Research Abstract |
ダイポール磁場配位で陽電子群の安定閉じ込めを実現するための基礎研究として,陽電子の軌道特性についてRT-1における実験及び数値計算を実施した.前年度までの軌道解析によれば,ダイポール磁場中で線源から供給される陽電子の軌道は断熱不変量の非保存によりカオス的となり,再結合までに長い軌道長を取る.こうした現象は,核融合プラズマや磁気圏に観測される基礎過程として重要であると共に,陽電子の内向き輸送により安定な閉じ込めを実現する上で鍵となる効果である.本年度は,数値計算をRT-1の実際の装置配位で実施し高精度化すると共にその実験的検証を行い,さらに電場印加による軌道の変化を実験的に検出する事に成功した. 実験研究は,可動式の1MBqの小型Na-22線源とターゲットプローブを使用する事で実施した.計測に際しては,シンチレーション検出器2台を使用したコインシデンス計測システムを導入し,消滅ガンマ線の検出位置精度を高めた.計測ポートの制限から陽電子の空間分布情報を得る事が困難なため,検出器を固定し線源位置を変化させて計測を行った.その結果,ターゲットに到達する陽電子数は,カオスの効果を含む軌道計算結果から予測される値と良い一致を示し,線源から入射された高エネルギー陽電子は,再結合により失われる前にトロイダル方向に複数回周回する事が実験的に検証された.また,将来的に内向き輸送を実現するための基礎実験として,線源付近に配置した電極による電場印加を行い,上述のコインシデンス計測によりその効果の検出に成功した.これにより,陽電子の周回運動中に適切な外部電場の印加を行う事で内向き輸送を発生させる可能性を示した.得られた一連の成果は,非中性プラズマワークショップ(ドイツ)の招待講演や日本物理学会秋季大会(横浜市)の口頭発表で報告した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に引き続き,ダイポール磁場配位における陽電子の基礎特性の解明を目指す研究を実施している.当初の目標である陽電子のプラズマとしての閉じ込めを達成する事は困難な状況にあるが,導入したコインシデンス計測システムの有効性を示したと共に,当初見込みには含まれない興味深い現象の発見があった.高エネルギー陽電子を捕獲するためには大型装置が有利である事が明らかになったため,実験研究はRT-1装置を使用して行った.当初の主目標であった陽電子の長時間閉じ込めの検出には至っておらず,トロイダル配位における反物質プラズマ生成のために大型線源を使用する必要性が明らかになった.その一方で,ダイポール磁場配位にコインシデンス計測システムを導入し,消滅ガンマ線の計測を位置精度良く実施する事に成功した.また,ダイポール磁場配位における陽電子のカオス的な軌道特性について,当初計画には含まれない成果が上がりつつある.線源から供給される高エネルギー陽電子の軌道解析を行った結果,軸対象な系でありながら断熱不変量の非保存化を通して陽電子軌道が自発的にカオス的となる事を見出した.こうしたカオスの効果は新しい粒子入射方法に応用可能であると考えられ,その詳細な性質の分析を継続して実施している.また,上述のコインシデンス計測システムとターゲットプローブを使用した初期実験を通して,こうしたカオスの効果の実験的な検証に成功した.一連の研究を通して,ダイポール磁場配位における陽電子の挙動と計測方法についての基本的な理解に一定の進展があったものと考えられる.
|
Strategy for Future Research Activity |
規制対象下限以下の小型線源を使用した現在の実験では,陽電子群のトロイダルプラズマとしての捕獲は困難である可能性が高い.実験を実施しているRT-1実験室は放射線管理区域ではないため,大強度の線源を使用する事は事実上不可能な状況にある.そこで,前年度までの研究で発見した陽電子軌道のカオスの効果を詳細に明らかにすると共に,これを応用して,閉じた磁気面内への高効率の粒子入射方法を確立する事を目指す.こうした研究は,磁気圏等に広く観測されるダイポール磁場中の高エネルギー荷電粒子の挙動を理解するための基礎研究として,また大型線源を使用した将来の反物質プラズマ生成法を開発するという観点からも重要と考えられる.そのために,ダイポール磁場配位における粒子軌道がカオス化する条件や機構を明らかにすると共に,内向き輸送を発生させるために適した外部電場を発生する電極の設計を行う.陽電子の入射や閉じ込め効率を評価するためのテスト粒子シミュレーションの精度を向上させ,これまでに得られたRT-1における実験結果との対比を行う計画である.その上で,2013年度は本研究の最終年度に当たるため,得られた実験及び数値計算の結果を吟味し,ダイポール磁場配位における陽電子の挙動とプラズマとしての閉じ込めに向けた見通しを総括する予定である.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(4 results)