2011 Fiscal Year Research-status Report
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23655005
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
關 金一 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30250103)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 低温固相光化学 |
Research Abstract |
研究申請内容の基づき、低温固相における光ナノ爆発機構の研究を遂行した。本研究は低温固体中の分子において、光励起により始まるラジカル反応が気相中でのラジカル分子反応とは異なる反応速度で反応が進行することが予想されることを前提に企画されている。特に大気微量成分のような極希薄状態下での反応は固相に濃縮される効果があるため、気相反応に比べて劇的に反応速度が大きくなる可能性を秘めている。研究はまず現在光ナノ爆発の現象が観測されている典型的な有機化合物での研究を進めた。具体的には塩素の光化学過程におけるラジカル機構について20種類以上の化合物について常温気相および低温固相における反応過程について研究を行った。その結果、アセチレン‐塩素混合系およびブタジエン‐塩素混合系において光ナノ爆発といえる現象を確認した。基本的な固相における生成物の定量測定と低温マトリックス中における光化学過程のその場観測で、両者の実験結果を対応させることにより、反応生成物の生成機構を解明し、気相中と異なる反応系が低温固相中で見られることの意義を明確にできた。さらにマトリックス単体の実験で、ハロゲン化エチレン類の光分解過程において、新規中間体の検出に成功し、FT-IRによる解析から、その解離機構について詳細な知見が得られた。以上の成果は先行研究としてJ.Photochem.Photobio.A.Chem.219(2011)200.に掲載され、2012年日本化学会春季年会2件の報告を行った。さらに、2012年において2件の国際会議(XXIVth IUPAC Symposium on Photochemistry in Portugal, 28th Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics in Fukuoka)において発表の申請がなされている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験としては低温固相光化学装置を使用し、FT-IRにより、光照射によって形成される、生成物とともに反応の中間状態での形成が予想されるラジカルや不安定化合物の測定を行った。光照射光源として紫外パルスレーザーを用い、定量化のため光源強度をリアルタイムでフォトダイオードによりモニターしている。固相における生成物の定量化というところに主眼をおくため、FTIRによるその場観測により、反応物および生成物の測定を再現性という観点から行っている。試料は温度制御された、7K-200Kに冷やされた基板上に吹き付け、基板上に試料は約10-100ミクロンの厚み(干渉縞にて計測)でつき、その厚みと吹き付け量を形状からコンピューターシミュレーションすることにより、赤外の吸収断面積を求めることが可能である。そのため絶対的な試料量の測定が可能なシステムとなっており、定性的ではなく定量的な議論が可能になった。測定されたIRスペクトルの同定には安定化合物の別途測定とともに、不安定化合物に対しては非経験的分子軌道法を用いた。以上の方法で基本的なIRのみの分析では同定が困難な化学種、特に原子に対してはレーザー蒸発法を利用した、四極子質量分析器による計画を施行した。昇華用レーザーとしてYAGの基本波1064nm、500mJ/pulseを使用し、光解離後のハロゲン原子の濃度測定を見積もることにより、固体中での各温度条件化における連鎖反応系の進行度についてIRでは得られなかった、新たな知見を得るべく実験系をデザインした。実験の対象は事前実験で十分な量子収率が得られた塩素とブタジエンの系とした。その結果、現在までに104を上回る量子収率が得られ、その爆発的な反応機構について詳細な検討がなされ、新たな光ナノ爆発機構の解明がなされた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、基本的なナノ光爆発機構の解明がなされ、その本質が分子間配置による反応選択性の違いが爆発的な反応を引き起こすことにあることがわかってきた。この現象がどのような系で顕著に起きうるのかについて今後研究を進めていく予定である。具体的にはハロゲン‐有機物間の配置が有機物の構造に依存するため、多くの不飽和結合をもつ分子に対して同様な実験を行い、分子間配置に関してより多くの検証をしていく。一方で大気化学、宇宙化学における低温固相における光化学過程を解明する糸口の研究として不飽和炭化水素や塩素系化合物自身の反応中間体、励起状態の実験を行っていく。大気化学の研究面においては、不均一過程で生じる塩素の反応が低温固相中での光化学により起きる影響について議論できる新たなモデルを提唱すること、すなわち、不均一反応で生じた塩素が爆発的に固相中で反応する可能性があることがわかれば、その特徴をモデルに組み込みオゾンホールもしくは成層圏全体のオゾン層の未来予測に重要な科学的予測を与えることを実現する。星間空間での分子進化については、星間塵等の表面化学反応もその候補には挙がっているが、実際の反応速度論的な検証が困難であるため、気相での反応に比べ実証データが少ないのでこれを測定する。最終的に我々は低温固相における反応機構を光化学の問題として捉えることにより、星間空間における分子進化や大気化学の諸問題に対しての新たな展開を提唱していく。実験的には主として炭化水素系の低温固相表面での反応速度を実際に測定することにより、その可能性を探ることができる。さらにはFT-IRおよびQ-Massとレーザーを組み合わせるその場観測の測定から、反応機構を実際に解明することができるため、宇宙空間のような極低温領域におけるナノ粒子上の爆発的な分子形成機構について新たなモデルを提唱できると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の成果を元に低温固相における光化学の実験をさらに遂行する。基本的に予備実験は完了しているので、計画に変更は必要ないが、FT-IRによる機構解明が不十分なときを考慮の上、質量分析器による補間実験を予定しており、両者の実験ウエイトを必要に応じて振り分けていく予定である。その場観測実験は塩素-有機化合物に見られる特異的な反応速度増加の機構解明の結果如何により、他の光化学系にその機構が適用できるかの検証実験を行う予定にしている。現在注目しているのはその気相における反応素過程が分子動力学的に十分に研究されている、ジクロロエチレン類への適用を考えており、反応中間体としてのビニリデンラジカルの検出や、反応生成物であるHCl、Cl2、アセチレン等の生成機構に新たな展開を求めていく。大気化学で重要なCl-ClOサイクルのオゾン破壊機構により関連した系である、ClONO2の低温固相における光化学素過程の解明を中心に、HOx系、NOx系への展開を試みる予定である。星間分子における分子進化の過程の研究としては、不飽和炭素系の低温固相光化学過程の研究が必須であり、本研究でその研究方法の有効性が証明された、低温固相のFT-IRによるその場観測法を用いて、アセチレン、シアノアセチレン系の基本的な光化学過程について、研究を進める。
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Research Products
(3 results)