2013 Fiscal Year Research-status Report
多重水素移動反応を代表例とした量子論に基づく新しい化学反応理論の構築
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23655008
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
志田 典弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00226127)
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Keywords | 化学反応理論 / 量子論 / 量子ダイナミックス / 反応メカニズム / 反応経路 / 7-アザインドール-水錯体 / ギ酸二量体 / 電子励起状態 |
Research Abstract |
H25年度は、本研究課題に関して幾つかの方向から具体的な問題についての理論計算を行い、現在開発中の方法論の検討を行った; 1、「7-アザインドール-水錯体のS1状態における多重水素移動反応」に関する反応メカニズムや反応経路の詳細を、高精度な分子軌道計算と量子ダイナミックスの計算により検討した。その結果、このような複雑な水素移動反応では、旧来の反応経路による解釈がほとんど意味をなさないこと、およびポテンシャルエネルギー曲面の大域的な形状に依存した全く新しい動的な反応経路が存在することがわかった。 2、「ギ酸二量体の電子励起状態における2重水素移動反応」を例として、電子励起状態が水素移動反応に及ぼす影響を検討した。その結果、電子励起状態では複雑な状態交差による電子状態間の非断熱遷移が、プロトン移動に重要な役割を演じていることがわかった。さらにこのような電子励起状態を充分な精度で計算することが、大変に難しいことがわかった。これについては現在も検討を続けている。 なおこれらの研究成果の一部は、「2013年第7回分子科学討論会」で報告した。 なおこれらの研究以外に、水素移動反応を模した2次元のモデル系で、古典及び量子ダイナミックスによる数値計算を行い、多重水素移動反応の反応メカニズムの振るまいを詳細に検討した。その結果、1の動的な反応経路についての描象がある程度つかめてきた。また量子力学と化学反応理論とを繋げる方法論の検討を行い、その定式化とコンピューターコードの開発を行った。これについては、現在も継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水素移動反応、特に多重水素移動反応の反応メカニズムは大変に複雑で、その一般的理解やモデル化が予想以上に困難だった。例えば水素移動反応の量子ダイナミックスの解析には、カオス的な発想による位相空間での解析まで必要だった。もちろんこのような問題はある程度で棚上げし先に進むことも可能ではあるが、きちんと解析しながら研究を進める方が研究の価値が高くなると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
複雑な多重水素移動反応の反応メカニズムについての一般化したモデルを確立すると共に、現在進行中の量子力学と化学反応理論とを繋げる方法論を完成させ、これに基づくコンピューターコードの開発と具体的な化学反応についての応用計算を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題では、量子論に基づく方法論の開発とそれに基づく大規模数値計算を行う。このため電子計算機の購入に多くの予算を申請した。しかし方法論の開発がやや手間取ったため、大規模数値計算の研究計画が少しずつ遅れ気味となった、勿論、H25年度の時点で必要な電子計算機類を購入しておくことは可能ではあるが、電子計算機の性能向上は日進月歩であるため、H26年度に購入し、同時に研究を完成させることが最適と判断した。 研究の最終段階を完成させるための計算機リソースとして、未使用額を高性能なワークステーションとソフトウエア群の購入費用に充てる。また研究成果の発表のため、旅費及び出版物の経費として未使用額を使用する。
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