2011 Fiscal Year Research-status Report
光イオン化により生成したカチオン-電子対の単一分子レベル測定法の開拓
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23655010
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮坂 博 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40182000)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 単一分子計測 / 光イオン化 / カチオン-電子イオン対 / 再結合発光 / 単一光子 |
Research Abstract |
凝縮系の光イオン化過程によって生成する初期カチオン―電子対の対間距離分布は、その後のイオン種の反応挙動を支配する重要な因子であるとともに、気相よりは2-3eV低いエネルギーで進行する凝縮系の光イオン化過程のメカニズムとも深く関わる値である。しかしこの対間距離を直接測定することは困難であり、申請者らの知る限りでは報告例は存在しない。本研究は、凝縮系における光イオン化過程のより直接的な知見を得ることを目的とし、再結合発光のモニターによる単一分子レベルでの光イオン化の検出と、プローブ顕微鏡を用いた単一ジェミネート対のカチオンおよび電子の位置測定を組み合わせ、単一分子レベルの初期カチオン―電子対の対間距離分布測定方法論の探索と確立を行うことを目的とした。 23年度は予備的な測定として、既存の光学顕微鏡とCCDカメラからなる単一分子蛍光測定システムを用いて、まず数100nmのサイズの微小無極性液滴を対象としてその中に存在する単一分子からの蛍光計測を行った。蛍光分子が液中に存在する場合には、蛍光の明滅現象は観測されないが、放出された電子が液体界面にトラップされ長時間存在するイオン状態が生成した場合には蛍光のOFF状態が生成する。界面活性剤を変化させた測定から、界面における分子のイオン化過程の検出を行った。これらの結果から、三重項状態からのイオン化過程を明らかにできた。また固体系試料中の蛍光分子の明滅現象の観測と解析から、イオン化と再結合に対する吸着分子の耐久性を検討した。その結果、STM測定に適した分子系として数種の有機分子が測定に使用できることが判明した。またこれらの蛍光明滅のダイナミクスから、イオン化状態の時間分布に関する知見を獲得し、24年度に行うSTM測定に対する最適化条件を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、24年度に実施予定のプローブ顕微鏡を用いた測定に対する準備は23年度にほぼ達成できた。またプローブ顕微鏡についても研究室に24年度に別経費で導入が予定されており、共用設備の使用では達成しにくいカスタムメード的な光学系の構築も可能となった。 とくに室温における凝縮系の単分子蛍光測定測定に現れる蛍光のOFF状態のほとんどの原因が三重項状態を経た二光子イオン化であることが実証できたことは、今後の研究展開に対しては重要な意味を持つ。特に光強度の大きなパルス光源ではなく、通常のcwレーザー光照射によってイオン化が可能となるので、蛍光測定の間にOFFに変化した際にSTM条件下でバイアスを変化させることにより蛍光のON状態を容易に作成できる可能性を持つ。すなわちイオン化状態に対しては、外部電場効果により、滅状態の時間が変化することが統計的に知ることが可能となると同時に、サイトに依存したイオン化電圧を知ることも可能になる。一方、プローブ顕微鏡としては、蛍光測定のためには光学測定とSTMの同時計測のためには、少しステージの改造などが必要であることも判明した。この点については、幸いなことに本年度に研究室に他経費でプローブ顕微鏡が導入されるので、このステージの部分だけを解像することで、十分に対応できることも判明した。以上のように、基礎データの獲得に足しては概ねの結果が得られると同時に、今後の発展に対して積極的にSTMの測定を展開できる可能性を示す結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、23年度に観測を行った試料に対して、STMによる対間距離測定にチャレンジする。そのためには、まず光学顕微鏡観測とプローブ顕微鏡観測が同時に可能な測定装置を組み立てる必要がある分子の位置の特定のためには、まずイオン化の前に単一分子レベルの蛍光像をCCDカメラであらかじめ、ステージをスキャンさせ分子位置を特定する。我々の測定では、蛍光像の二次元解析 により5-10 nmの以内の精度で分子の位置を決定できる。STMに対しては原理的にはバイアス電圧を変え、基板を絶縁性のものとした場合にはカチオンへは電子の注入が、トラップされた電子から探針への移動が起こることになる。もちろん、単一の電子の信号を検出することは困難が予想できる。イオン化の後(蛍光像が無くなったあと)、その位置にカチオンの場合には探針からの電子注入による再結合発光を観測することが原理的には可能である。したがって、まずカチオン状態の場所の特定を行った後にバイアスを変化させ、再びイオン化を行い電子の位置を特定する事を試みる。プローブ顕微鏡は、新たに導入されるプローブ顕微鏡装置に対して、本経費でSTM用の部品を購入し構築する。これらの装置開発と実験的な知見を総括し単一分子レベルのイオン化状態の検出法を開発し、その後に、高分子系や分子集団系など、ナノーメゾスコピック空間領域での電子輸送可能な系の、電荷輸送距離の直接観測等に対しても、本手法を応用可能なものとして確立することを目指す。これらの結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究の展開には、STMの使用が重要な役割を果たす。このために、新規導入されるプローブ顕微鏡の改造、測定システムの構築を行う。このための部品、モジュールなどの購入のために経費を使用する。特に昨年度は、主に現有の設備と運営交付金を中心に、主に単一分子蛍光家速を行い研究を推進した。また昨年度途中に、24年度にプローブ顕微鏡の導入も予定できたのでので、共同使用設備に新たなモジュールを組み合わせることは行わず、24年度に集中して研究室において使用できるプローブ顕微鏡に対して、STM関連の部品を拡充することとした。そのため、昨年度は大きな経費の使用は行わなかったが、今年度には上記のような用途に対して、集中して装置開発にあたる。一方、単一分子の発光測定システムについては、ほぼ現状の装置においても本研究の推進に十分な性能が得られており大きな経費は要さないが、STMとの同時測定のために光学部品を購入しシステムの拡充を行う。主な化学薬品、ガラス器具などの消耗品は、通常の運営交付金の範囲で十分に購入可能である。また国内旅費は、主に学会発表や情報収集のために使用し国際学会発表に対しては本経費は使用しない。特段、装置などの大きな故障が発生しない場合においては、本補助金と通常の運営交付金により研究を推進できると考えられる。
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Research Products
(3 results)