2011 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属錯体によるフルオロアルケン類の求電子的活性化と反応制御
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23655028
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ジフルオロアルケン / パラジウム / 触媒 / 求電子的活性化 / フッ素 / 多環式芳香族炭化水素 / PAH / 有機半導体 |
Research Abstract |
オルト位にアリール基を有するβ,β-ジフルオロスチレン誘導体に対し、等モル量の三フッ化ホウ素エーテル錯体存在下、カチオン性パラジウム(II)錯体[Pd(CH3CN)4](BF4)2を触媒として作用させることにより、9位にフッ素置換基を有するフェナントレン誘導体を収率良く得た。本反応では、ジフルオロスチレン誘導体のジフルオロアルケン部位によるパラジウム(II)への配位が起こることで、ジフルオロアルケンの求電子的活性化を達成している。続いて、分子内Friedel-Crafts型環化が進行し、フッ素置換フェナントレン誘導体が生じたと考えている。同様の条件下、フッ素置換クリセンの合成にも成功した。 フッ素が置換したアルケン類は、通常のアルケン類とは異なり電子不足となっている。この性質を利用すると、通常のアルケンの化学ではなしえない形式の合成反応が可能となる。しかし実際には、フッ素置換アルケン類は極度の電子不足のため活性化剤との相互作用に乏しく、特にこれを触媒的な合成反応に活用できた例はなかった。上述の結果は、これまで達成例がほとんどなかったフルオロアルケン類の触媒的活性化による炭素-炭素結合生成反応である。 なお、フェナントレンやクリセン等の多環式芳香族炭化水素には近年、有機半導体としての関心が集まっており、中には実用化されたものもある。フッ素置換基が有する特異な電子的効果から、フッ素が置換した多環式芳香族炭化水素はカラムナー型の結晶構造をとることが予想される。これにより、本研究課題でその位置選択的合成に成功したフッ素置換フェナントレンおよびクリセン誘導体は、有機電子材料として高い物性を示すことが充分に期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者等は最近、ジフルオロアルケン類の分子内Friedel-Crafts型環化を利用するテトラロン誘導体合成反応を報告した。これは世界に先駆けてジフルオロアルケン類の触媒的活性化を達成・活用した例であるが、一方でその反応経路を完全には制御できておらず、フッ素置換基を生成物中に残すことはできなかった。一般にフッ素が置換した有機化合物には生理活性等の有用な性質を示すものが多く、その効率的な合成反応の開発は重要な課題である。 今年度は、反応基質を適切に設計することにより、ジフルオロアルケンが有するフッ素置換基の1つを生成物中に残すことに成功した。これにより、フッ素置換多環式芳香族炭化水素を合成できた。フルオロアルケン類を活性化し、種々の有用化合物の合成に活用するためには、その反応性や反応経路を制御することが肝要であり、その意味で今年度の本研究課題はおおむね順調に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
[次年度に使用する予定の研究費が生じた状況] 申請者は平成23年度の検討項目に、クロスカップリング型のジフルオロアルケン合成法を追加した。このため予定していた検討内容の一部は次年度に実施することとなり、これに伴って研究費の一部も次年度に使用することとなった。 [今後の研究の推進方策] 平成23年度に行ったフッ素置換多環式芳香族炭化水素合成の検討過程において、反応基質の一部に反応性の乏しいものがあることが判明した。合成化学的見地からは、より高活性な触媒系の開発が望ましい。そこで平成24年度は、これまで利用してきたカチオン性錯体に代わって、反応系中で高活性触媒を発生させる手法を検討する。また、複数のジフルオロアルケン部位を有する基質を用いてタンデム型のFriedel-Crafts型環化を行い、共役系が長く伸長したフッ素置換多環式芳香族炭化水素の合成にも挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験に使用する試薬や溶媒やガラス器具などの物品購入のために、次年度の研究費のおおむね70%を充てる。この他、成果発表のための学会参加に係る旅費としておおむね10%、論文投稿のための英文校閲に係る謝金などとしておおむね10%、その他論文投稿料などに使用する経費としておおむね10%を充てる予定である。
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Research Products
(8 results)