2011 Fiscal Year Research-status Report
新しい電子系であるσ芳香族及び反芳香族化合物の探究
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23655029
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
斎藤 雅一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80291293)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | σ芳香族 / σ反芳香族 / ビス(セレノフェニル)ベンゼン / ジクロロアルミニウムラジカル / テトラエチルジリチオスタンノール / ルテニウム錯体 |
Research Abstract |
芳香族性や反芳香族性の概念は、ベンゼンやシクロブタジエンの特異な構造や反応性を説明する概念として提案され、現在では有機化学の枠組みを超えた化学全般にわたる重要な概念となっている。このようなπ芳香族性及び反芳香族性に対して、σ電子が担うσ芳香族及び反芳香族化合物の研究はほとんどない。そこで本研究では、π芳香族性及び反芳香族性とは異なる新しい非局在電子系であるσ芳香族性及び反芳香族性を明らかにすることを目的とした。 まず、ベンゼン環上に6つのテルロフェニル基を有する化合物の合成を検討したが、達成が困難であったため、既に発生が示唆されている6つのセレノフェニル基を有するベンゼンジカチオンの参照化合物である1,2-ビス(セレノフェニル)ベンゼンの酸化反応を検討したところ、珍しいブロモセレノニウムカチオンの合成・単離に成功した。また、酸化剤のカウンターアニオンを変えたところ、ジカチオン種の生成を示唆する結果を得た。現在、その結晶化続く分子構造の解明を目指している。 N-ヘテロ環状カルベンによって安定化された塩化アルミニウムの還元反応を検討したところ、反応は複雑で生成物の同定には至らなかった。しかし、この反応をラジカル捕捉剤として知られるTEMPO共存下で行ったところ、ジクロロアルミニウムラジカルの発生を示す捕捉生成物を得た。そこで、TEMPOを共存させないで反応時間を長くし、その後にTEMPOを加えたところ、今度はカルベン窒素上の置換基が脱落したラジカルの発生を示唆する予想外の捕捉反応生成物を見い出した。現在、この反応の機構を検討中である。 また、合成したテトラエチルジリチオスタンノールのルテニウム錯体に予想外のσ芳香族性が発現していると考えられることを理論計算により明らかにした。σ芳香族化合物の系統的な合成に繋がる知見と考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたベンゼン環上に6つのテルロフェニル基を有する化合物の合成には至らなかったが、そのセレン類縁体の研究を進めたところ、1,2-ビス(セレノフェニル)ベンゼンの酸化反応により、珍しいブロモセレノニウムカチオンの合成・単離に成功した。 また、アルミニウムの系では当初予定していたσ-芳香族性及び反芳香族性を有する化合物の合成には至らなかったが、ほとんど研究例のないアルミニウムラジカルの捕捉体の単離に成功した。 さらに予想外のσ芳香族性が発現していると考えられるテトラエチルジリチオスタンノールのルテニウム錯体の合成に成功した。 このように当初の目的化合物の合成には至っていないものの、予想外の、しかもほとんど研究例のない化合物の合成に成功したことから、研究は順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1,2-ビス(セレノフェニル)ベンゼンの酸化反応で得た知見を基に、σ-芳香族性及び反芳香族性の確立を目指して引き続きヘキサキス(フェニルセレノ)ベンゼンジカチオンの合成を目指す。また、ヘキサキス(フェニルセレノ)ベンゼンのσ-反芳香族性についても調べる。 N-ヘテロ環状カルベンによって安定化されたジクロロアルミニウムラジカルのTEMPO捕捉体の還元を行い、アルミニウムを含むσ-芳香族性及び反芳香族化合物の合成を目指す。 テトラエチルジリチオプルンボールを新たに合成し、これとルテニウム錯体の反応を検討し、新たなσ-芳香族化合物の合成が可能かどうかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に有機試薬、有機溶媒及びガラス器具などの消耗品の購入に充てる。また、いくつかの国内学会及び国際学会への旅費及び文献調査などに対する謝金としての支出も計画中である。
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