2012 Fiscal Year Research-status Report
ロタキサンキラリティーは有効な不斉場となりうるか?
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23655032
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
高田 十志和 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (40179445)
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Keywords | ロタキサン / 分子不斉 / 動的不斉 / 光学分割 / 超分子化学 |
Research Abstract |
ロタキサンキラリティーは従来の不斉中心や不斉軸・不斉面といった概念で規定できない、構造上動的な性質を持つと新しい不斉場を提供しうる。本申請研究ではロタキサンキラリティーのもつ価値や意義、すなわち空間的広がりやその程度を定め、その有用性を明らかにする事を目的として、不斉場の評価のために動的らせん高分子のキラリティーにロタキサンキラリティーを転写して評価を行ってきた。前年度までに軸成分の末端に重合性官能基としてエチニルフェニル基をもち、非対称クラウンエーテルを輪成分にもつ[2]ロタキサンモノマーを合成し、光学分割した後にロジウム触媒存在下重合してポリアセチレンを得た。CDおよびUVスペクトルによりらせん構造について評価を行ったところ、輪成分が主鎖近傍に近づくとらせんキラリティーが誘起されることから、ロタキサンキラリティーはコンポーネント間の交点付近を不斉中心として不斉場を構築しており、高分子上へ不斉場を及ぼし得ることを明らかにした。こうした成果をふまえ、24年度は輪成分上にエチニルフェニル基を有する分子不斉[2]ロタキサンの合成と光学分割、および重合と構造評価を行い、軸末端を重合した場合と同様にらせんキラリティーがロタキサンキラリティーにより誘起されることを見出した。すなわち対称性の高い軸成分の中心に輪成分を局在化させると、ポリアセチレンのらせんキラリティーは誘起されないが、軸成分の末端近くに輪成分が局在すると、ポリアセチレンのらせんキラリティーが誘起されるという結果から、コンポーネント間の交点が軸成分上のどの位置にあるかによって、分子不斉場の程度が変化する、すなわち輪成分に貫通する左右の軸成分のサイズが不斉場を決めていることを示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロタキサンキラリティーの本質解明に向けて、24年度は3つの目標を掲げて検討を行ってきた。1) 動的不斉ロタキサンの重合とらせんキラリティーの評価:対称な構造の軸成分と、エチニルフェニル基をもつ非対称なクラウンエーテルから合成されるロタキサンを光学分割し、各々重合して得られるポリアセチレンのらせんキラリティーを評価した。軸成分が対称であっても輪成分が軸成分の末端に局在化させると分子不斉を生じ、ポリアセチレンにらせんキラリティーが誘起されることを見出した。対称な軸成分の中央に導入する置換基のサイズを変えて、輪成分の移動をコントロールすると、輪成分が通り抜けられない場合にもっとも顕著ならせんキラリティー誘起が観察されたが、輪成分が通り抜けられる場合にはCDスペクトルのCotton効果は弱められ、ロタキサン不斉場が縮小されることが示唆された。 2) モノマーの結晶構造解析:単結晶構造解析により絶対立体配置を決定するために、立体既知な不斉点を導入したジアステレオマ ーの合成と結晶構造解析を検討を行ったが、結晶構造解析は行えなかったものの、これを重合したポリアセチレンでは、点不斉よりもロタキサンキラリティーがらせんキラリティーの制御に対して支配的であることが明らかにした。単結晶の作成と構造解析は引き続き検討する。 3) ロタキサンキラリティーの不斉認識:ロタキサンキラリティーの不斉合成を目指して検討を行っており、これまでの初期的なポリアセチレンの系に用いていた構造のロタキサンでは不斉合成は達成していないものの、今年度新たに光学分割可能な構造の分子不斉ロタキサンをいくつか見出しており、これらについての不斉合成について現在検討を進めている。 以上の成果について(1)は論文投稿に向けて準備中であり、(2)および(3)はまだ検討を要するが、重要な知見を得ることに成功したため概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は分子不斉ロタキサンの絶対立体配置の決定に向けて引き続き単結晶構造解析を検討するが、計算化学的なアプローチも検討する。また、分子不斉ロタキサンの不斉合成および不斉認識についても検討を進める。不斉合成については、輪成分と軸成分が貫通構造を形成する際のポテンシャルエネルギー差は非常に小さいと考えられるため、これまで不斉合成が困難であったと考える。そこで、ロタキサン構造を構築した後に、軸成分上の官能基に不斉触媒を用いて官能基変換を行うことで不斉合成する戦略も検討を進める。現在用いているクラウンエーテル型ロタキサンでは、合成上、軸成分上に2級アンモニウム塩が必須であるため、この窒素上を官能基導入点として利用することができる。そこで窒素上の不斉アシル化反応等を検討して、このとき輪成分を特定の方向へと移動させるような不斉反応系の探索を行う。 さらにロタキサン不斉場の応用展開としては、ポリアセチレンのらせんキラリティー誘起だけでなく、フォルダマーと呼ばれる内孔を有する巨大らせん構造の制御、および発光特性を有するπ共役系ポリマーへ展開し、円偏光発光の制御も検討する。また、ロタキサンキラリティーに基づく新触媒設計と不斉反応の検討として、有機分子触媒や配位子にロタキサンキラリティーを導入し、不斉反応の可能性について探索する。特に、有機分子触媒は金属触媒の不斉場と比較して、3次元的な配座が無いため、大きな不斉場を共有結合のみで構築することは難しいが、空間結合に基づくロタキサンキラリティーの不斉場はこの問題を解消する一つの手だてになりうると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額に記した金額については、すでに3月中旬に発注・納品薬品費であり、年度末につき支払いが終了していない分である。 これらの金額については新年度の支払いに含める。また、今年度も引き続き合成中心の研究計画であるため、申請額の多くを薬品・試 薬等の消耗品として使用する。薬品費については価格変動はあるものの、代表者研究室における毎月の薬品使用料等の平均値を割出し 、これを基に算出した。また、不斉反応に着手するにあたり、低温高温反応装置の購入を計画している。これに加えて、研究成果報告 および情報収集を目的とした学会参加のための学会参加登録費および学術誌への論文投稿にかかる費用も旅費およびその他として計上 した。
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