2011 Fiscal Year Research-status Report
カテコラート金属錯体を組み込んだ安定な芳香族ジカチオン種の生成と構造に関する研究
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23655042
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
戸部 義人 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60127264)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 芳香族性 / ジカチオン / 金属錯体 / 酸化還元 / カテコラート |
Research Abstract |
・デヒドロベンゾ[12]アヌレンを共役コアとした三核遷移金属錯体の合成とその性質の調査を主に行った。すでに配位子の前駆体となるtert-ブチルジメチルシリル基により保護されたカテコール型化合物を合成していたので、そのCsFによる保護基の除去に伴う金属交換反応により白金錯体を合成した。モデル化合物の理論計算により、中性からモノカチオン、ジカチオンと酸化が進むにしたがって12員環共役系における正電荷が増加することや、ジカチオンの12員環が芳香族性を示すことを確認した。そこで、電気化学測定により錯体の酸化挙動を明らかにし、得られた酸化還元電位に基づいてルテノセンを酸化剤に用いた化学酸化によりモノおよびジカチオン種を調製した。調製したカチオン種について、吸収スペクトル測定、開核状態のカチオン種のEPR測定、閉殻状態のカチオン種のNMR測定を行い、それらの磁気的性質や混合原子価状態に起因する電荷移動吸収帯について調査した。また、中性種およびジカチオン種の単離と単結晶構造解析を行い、それらにおける12員環共役系の構造変化の実験的検証を試みた。その結果、中性種について構造解析を行うことができたが、ジカチオン種は大気中における安定性が十分でないため、結晶化には至らなかった。・次に、ビフェニレンやジベンゾシクロオクタジエンジインを母核としカテコラート金属錯体を組み込んだ錯体の合成を行ため、配位子部分の有機分子の合成の可能性を探るための予備的実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の項目に関して計画通り研究を行い、おおむね期待した成果が得られた。・デヒドロベンゾ[12]アヌレンを共役コアとした三核遷移金属錯体を合成し、モデル化合物について理論計算を行い酸化状態と芳香族性との関係を理論的に調査した。・分光学的方法や電気化学測定により錯体の物性、なかでも酸化挙動を明らかにするとともに、化学酸化によりモノおよびジカチオン種を調製した。調製したカチオン種について分光学的測定を行い、磁気的性質や混合原子価状態について調査した。・中性種の単離と単結晶構造解析を行い、12員環共役系の構造を実験的に検証したが、ジカチオン種は結晶化には至らなかった。・ビフェニレンやジベンゾシクロオクタジエンジインを母核としカテコラート金属錯体を組み込んだ錯体の配位子部分の予備的な合成を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
・23年度の計画のうちで唯一達成できなかったデヒドロベンゾ[12]アヌレン白金錯体のジカチオン種の結晶化と構造解析を引き続き検討する。この系の研究については、23年度は理論計算と各種分光機器を用いた測定が主であったため、本予算を用いることなく遂行することができた。・23年度においてビフェニレンやジベンゾシクロオクタジエンジインを母核としカテコラート金属錯体を組み込んだ錯体の配位子部分の予備的な合成を行い、それらが合成できる可能性が明らかとなった。これらの予備実験は研究室に在庫していた薬品を用いて行ったので、23年度は本経費をほとんど使用することなく次年度の本格合成に温存すことができ、効率的な予算の運用が可能となった。24年度は本格的な大量合成を行い、金属錯体への誘導ならびにそれらの芳香族性の検証を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・ビフェニレンやジベンゾシクロオクタジエンジインを母核としカテコラート金属錯体を組み込んだ錯体の配位子部分の本格的大量合成を行い、白金カテコラート錯体に餅びく。それらの分光学的ならびに電気化学的測定に基づき基本物性を明らかにするとともに、化学酸化によりモノおよびジカチオン種を調製する。調製したカチオン種について、吸収スペクトル測定、開核状態のモノカチオン種のEPR測定、閉殻状態のジカチオン種のNMR測定を行い、それらの磁気的性質や混合原子価状態に起因する電荷移動吸収帯について調査する。・反芳香族4パイ電子系の生成を目的として、トリフェニレンをコアとする白金三核錯体の合成とその6パイ共役系ジカチオンの生成を行う。そのジカチオンにおける基底三重項状態の検出を行うとともに、安定な単結晶が得られるかどうかについて検討する。・23年度の研究の発展として、二つのデヒドロアヌレンカテコラート錯体がルテニウムセミキノネート構造により連結された錯体を合成する。そのセミキノネート構造は、カテコラート白金錯体部分の存在により安定な一重項ジラジカル状態になると期待される。また、2段階の1電子酸化により二つの10パイ電子系がカテコラートRu(II)により連結された新奇なパイ電子系に導くことができる。これらについて、ESRスペクトル、近赤外吸収スペクトルおよびX線構造解析に基づき調査する。・最後に、以上の研究成果に基づき、金属カテコラート錯体を組み込んだ芳香族ジカチオンの化学の発展の可能性を総括する。
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Research Products
(3 results)