2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23655067
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
原田 明 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (90222231)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 分析科学 / 表面・界面物性 / 紫外励起分光 / クラスター化学 / 水面 / 多環芳香族 / ピレン / 共焦点顕微鏡 |
Research Abstract |
実験データに基づき、水面分子クラスター化学とでもいうべき新研究分野の開拓を図ることが目的である。具体的には、紫外光励起共焦点蛍光分光顕微鏡を開発して用い、"水面に吸着した小分子量(<300)の有機化合物は、極微量であっても水面上ではクラスターを形成する"ことを実験的に証明し、その状態を解析する。典型的な芳香族化合物(ベンゼン、ピレン、ペリレン等)を観測対象として、次に誘導体へと検討を進めて水面特異的な分子挙動の分子論的理解を深め、あわせて新規実験手法を確立する。研究は次の3つを柱として進め、成果は逐次発表する。(I)紫外光励起共焦点蛍光分光顕微鏡の開発。(II)水面吸着芳香族化合物の測定とクラスター形成の証明、状態解析法の開発。(III)各種芳香族化合物誘導体の水面クラスターの特徴付け。 2年計画の初年度である本年度は、主に(I) (II)の項目を検討した。(I)は本研究計画の根幹を成し、研究の成否を決定づけるものである。装置開発のポイントは、(1)対象とする化学種(ベンゼン等)に合わせた紫外波長可変光源の利用、(2)その波長域で用いることが可能な共焦点光学系の設計、(3)分子配向を決定する方法の開発の3つである。当初、紫外レーザー光源の利用を検討したが、波長可変域が不十分であること、Xeランプベースの高輝度紫外光源が利用可能であることから、新規にHigh Power Xe光源を導入し、全反射励起を用いたセミ共焦点光学系を新たに設計・試作した。また、装置の定量性、経時安定性等を評価した。(II)については、ピレンをターゲットに絞り、吸収・発光特性の溶媒依存性を検討し、水面吸着分子に特有なスペクトル観測が期待できることを見いだした。他、可視光励起を用いた実験結果をもとに水面pHの新規決定法を提案した。また、z偏光子を用いた水面分子配向測定を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年計画の初年度である本年度は、(I)紫外光励起共焦点蛍光分光顕微鏡の開発、(II)水面吸着芳香族化合物の測定とクラスター形成の証明、状態解析法の開発を中心に検討を進めた。(I)の装置開発については、当初、紫外レーザー光源の利用を予定していたが、検討の中で、全反射励起を用いたセミ共焦点光学系(紫外全反射励起セミ共焦点顕微鏡)を優れた特性を持つ装置系として新たに着想し、設計・試作した。これは、現有の紫外レーザーシステムでは波長可変域が不十分であることに最大の問題があるが、これを容易に克服できる装置系となっている。加えて、芳香族分子を観測対象とした場合、深紫外光励起が必然であるが、レンズ光学系を有する透過型の対物レンズはこの波長域での特性が悪く、一方、反射光学系の紫外対物レンズは扱い難いといった問題も克服できる光学系となっている。この新たな光学系により、ほとんどの芳香族化合物を観測できる可能性を有する顕微鏡システムを提案できたのは、当初の予定を越えた成果である。新規装置故に開発に手間取り、経時安定性に若干の問題が残っている。(II)については、水面吸着した芳香族化合物がバルク中のものと異なるスペクトルを示す根拠となる基礎データを得ているが、クラスター形成の証明には至っていない。状態解析法の開発として、可視蛍光データをもとに水面pHの新規決定法の提案に成功した。非経験的決定法としては、水面分子の基礎物性データ(水面での酸解離定数のみ)に欠けるため完璧ではないものの、この測定法を含めた提案となっている。水面分子の配向決定のためにz-偏光子を用いて検討したが、水面に垂直な遷移モーメントを持つ場合に十分な信号強度が得られておらず、検討を継続する必要が残っている。以上、予想以上の進展があった部分と遅れ気味の部分を総合して、達成度としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果であり新規提案となった(1)紫外全反射励起セミ共焦点顕微鏡について、および、(2)水面pH決定法については、既に平成24年5月開催予定の国際学会IACIS (International Association of Colloid and Interface Scientists) 2012で成果を発表する予定となっている。特に、(2)については細かい部分を詰めた上で欧文論文誌への投稿を予定している。(1)については、性能を確認と改良を進め、芳香族化合物(具体的にはピレン)の水面選択的な吸収スペクトル測定結果を得て、クラスター形成の証明を進める。さらに、(III)各種芳香族化合物誘導体の水面クラスターの特徴付け、に着手して結果を整理し、研究成果をまとめて発表することを予定している。具体的には、初年度からの検討を発展させ、次の3点を中心に研究を進める。(A)多環芳香族(ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペリレン)とそれらの誘導体(トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)の水面クラスター形成の検討。(B)クラスター形成への溶媒液性(pH、イオン強度、アルコール類等の化学種添加)の影響の検討。(C)水面吸着化学種が感じるpHとバルク溶液pHとの差の検討。これらの系統的な検討を進め、水面クラスターの状態、形成条件を特徴付けてまとめ、新研究分野の開拓への足掛かりをつける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(\207,335-)は、"11.現在までの達成度"に細述したように、開発予定の装置系に設計変更があったため生じた。当初計画で計上していた紫外対物レンズの購入は不要となり、新たにHigh Power キセノン光源を導入して、光学系を整備した。この全反射紫外光励起のセミ共焦点光学系を持つ顕微鏡は、新規に開発中のあるものであり、本年度既に試作済である。旧設計の装置系と新設計の試作装置系の開発経費の差額が、次年度使用額に相当する。新設計の全反射励起を用いたセミ共焦点光学系は、より優れた性能が期待できるものであるが、新たな試みであるため完成までには改良を続ける必要があり、今後の検討で光学素子や部品の追加が必要と予想される。特に、装置性能を引き上げるために試料セルには特殊な形状の溶融石英性セルを設計・購入して用いる予定である。ゆえに、次年度使用額は、試作中のセミ共焦点光学系とその周辺装置の整備にあてる。これに伴い、消耗品費(光学素子・部品、電子部品、ガラス器具、試薬)を当初計画の\420,000-から\627,335-へと変更する。設備備品の購入予定はない。旅費(研究成果発表、\300,000-)、人件費(論文の校閲、\60,000-)、その他(研究成果投稿料、\120,000-)については当初計画から変更はない。
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Research Products
(7 results)