2011 Fiscal Year Research-status Report
ポリペプチド側鎖の動的結合再編成によるタンパク質型高次構造と機能の創発
Project/Area Number |
23655099
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大山 俊幸 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30313472)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 動的共有結合 / ポリペプチド / イミン / アルデヒド / 高次構造 / CDスペクトル / 動的組換え |
Research Abstract |
側鎖にアミノ基を有するポリペプチドであるポリ(L-リシン)の塩酸塩とイミダゾール-4-カルボキシアルデヒド(IA)を三級アミンの共存下で反応させることにより、動的共有結合であるイミン結合を介してイミダゾリル基が側鎖に導入されたポリペプチドを合成した。次に、得られたポリペプチドをp-トリル基、4-ヒドロキシフェニル基、および2-ヒドロキシエトキシフェニル基を有するアルデヒドとともに重水素化メタノールに溶解し、「イミン/アルデヒド」の動的組換えを利用した側鎖組換え反応の進行を1H-NMRスペクトルにより追跡した。その結果、ポリペプチド側鎖からのIAの脱離と、その他のアルデヒドのポリペプチド側鎖への導入が確認され、側鎖組換え反応の進行が明らかとなった。しかし、ポリ(L-リシン)塩酸塩とIAとの反応の際に三級アミンとしてトリエチルアミンを用いた系では、イミダゾリル基のポリペプチド側鎖への導入率が100%には達せず、このポリペプチドを側鎖組換えに利用した場合には、アルデヒドと溶媒のメタノールとのアセタール化が副反応として進行してしまうことが明らかとなった。そこで、イミダゾリル基導入時の三級アミンを1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(DBU)に変更したところ、イミダゾリル基のポリペプチド側鎖への導入率は100%となり、このポリペプチドを利用した側鎖組換え反応では副反応であるアセタール化も進行しないことが確認された。次に、メタノール中で側鎖組換え反応を行い、組換え反応の進行に伴う高次構造の変化をCDスペクトルにより追跡した。その結果、反応の進行に伴いCDスペクトルの強度に変化が見られ、側鎖の組換えがポリペプチドの高次構造に影響を及ぼしていることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画においては、平成23年度には「1.側鎖にアミノ基を有するポリペプチドであるポリ(L-リシン)と1種類のアルデヒドとの反応により、側鎖にイミン結合を有するポリペプチドホモポリマーを合成する」こと、「2.得られたホモポリペプチドを多種類のアルデヒドと共存させ、イミン/アルデヒド間の動的結合組換えにより種々の置換基をポリペプチド側鎖に導入する」こと、および「3.ホモポリペプチドと多種類のアルデヒドとの動的結合組換えに伴う高次構造の変化を調査する」ことの3点を掲げていた。それに対して、実際の研究実績は【研究実績の概要】欄に記載した通りであるが、上記の「1」~「3」をおおむね達成していることが分かる。よって、【現在までの達成度】としては「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の成果として、側鎖の結合組換えが高次構造に影響を及ぼしていることが確認されたので、平成24年度は、組換えに用いるアルデヒドの種類や組換え条件を詳細に検討し、より明確な高次構造の変化が実現できる系を確立する。さらに、側鎖組換えの結果として得られるコポリペプチドを変性させたのちに変性条件を除去することにより、もとの高次構造が再現できるかどうかを検討し、タンパク質で実現されている「モノマーユニット配列→高次構造→機能」という非線形的な創発現象の人工的な実現を目指す。変性実験においては、イミン結合が変性時に組換わってしまうのを避けるため、熱やpH変化による変性は避け、変性溶媒や変性剤(尿素など)を用いた変性を検討する。具体的には、まず、組換え後のコポリペプチドから低分子アルデヒド成分を除去しCDスペクトルにより高次構造を確認する。次に、このコポリペプチドを変性条件下におきCDスペクトルの変化を確認する。さらに、変性条件を透析などによって除去し、再びCDスペクトルを測定する。ポリペプチドのモノマー配列情報として特定の高次構造が記憶されていれば、上記の一連の操作により、いったん変性した高次構造が変性条件除去後に初期の高次構造へと復元するはずである。また、ターゲット化合物存在下において側鎖組換え反応を行うことにより、ターゲット化合物情報のモノマーユニット配列および高次構造への刷り込みを行い、高次構造に基づく分子認識が可能なポリマーを得ることも検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度においては、実験系の組み方について検討を行った結果、当初計画時に想定していた実験スケールよりも小さなスケールでの実験が可能であることが明らかとなり、その結果、試薬類の購入に必要な経費が当初計画よりも少額となった。しかし、次年度に行う変性実験については最適な条件が現時点では不明であるため、多くのポリペプチドを準備し多様な条件について検討を行う必要がある。よって、平成23年度に発生した「次年度使用額」については物品費、特に試薬および実験器具類の購入に充てる予定である。
|