2012 Fiscal Year Research-status Report
マルチ認識ポケットを備えた単結晶ナノチャネルの機能
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23655117
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩谷 光彦 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60187333)
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Keywords | 機能性結晶 / 分子認識 / 超分子金属錯体 / 不斉結晶化 |
Research Abstract |
複数の異なる機能単位を精密配列することによって形成されるナノ空間は、その内部表面に分子認識能を付与することが可能であり、多点/多成分分子認識や多段階反応の場を提供する。我々はすでに、一種類の環状配位子とPd(II)イオンから、四種類の異性体の関係にある分子認識ポケットをもつ環状錯体が同時に形成し、さらにこれらが自己組織化することにより、約1.5 nm径のナノチャネル構造をもつ単結晶が効率よく生成することを見出した。得られたナノチャネルの壁面には、化学的・立体的性質が異なる 数種類のマルチ認識ポケットが一義的に配列している。 今回はまず、本結晶をさまざまなゲスト分子を含む溶液に浸けると、それらのポケットに位置選択的あるいはジアステレオ選択的にゲスト分子が吸着することがわかった。これらの現象は、ゲスト分子の取り込みが単結晶から単結晶への変換の形で起こるため、単結晶X線構造解析により、結合状態の詳細が明らかにされた。特に、極低温での反応減速化による時間分解測定により、それらの取り込み過程が2段階で起こることが判明したことは、実験結果の深い理解につながるものである。また、溶媒の種類や組成を変えることにより、異性体の比率が全く異なる中空錯体が種々生成することを見出した。X線構造解析により、それらの詳細な構造が決定し、生成したナノ空間は両親媒性分子を取り込むのに適した構造をもつことが明らかとなった。さらに、キラル分子により不斉結晶化が起こり、そのラセミ化現象も明らかにすることができた。現在は、本機能性結晶を用いて、複数種のゲスト分子の同時取り込みにより、チャネル内の結合形成反応の加速化や選択性向上、あるいは酸化還元反応の実現を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、オリジナルのナノチャネル結晶の金属イオンの種類や環状配位子の再設計により、機能性結晶の多様化を図る予定であったが、溶媒の種類や組成を変えるだけで、同Pd(II)錯体の異性体組成や自己集合構造が大きく変わり、分子認識能をもつ環状錯体が内部表面を形成する中空空間が生じることが新たに見出された。これは、研究開始時には予想できなかった結果であり、機能性結晶の機能の多様化を進める上で重要な知見である。 また、ゲスト分子がナノチャネル表面に吸着する動的過程を、極低温で吸着過程を著しく減速させ構造解析を行う方法により、時間分解解析を行うことに成功した。その結果、最終的に熱力学的に最も安定な状態に達する前に、ゲスト分子が他の分子認識サイトに寄り道をすることが明らかとなった。中空空間に取り込まれたゲスト分子の反応中間体を安定化させ構造を決定した例は数例報告されているが、非共有結合相互作用に基づく動的過程の中間状態を実験的に捉え、その構造と時間スケールを明らかにしたのは、我々が知る限り世界で初めての例である。この知見は、今後複数の異なるゲスト分子を用いる反応や会合様式を予想し理解する上で非常に有用なものである。このように、研究計画時に期待した以上の実験結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の課題を以下に要約する。 (1) 複数の異なるゲスト分子の吸着過程における位置選択性、分子配向と相互作用、反応性(結合形成・酸化還元反応の速度、選択性)を、X線構造解析等により検討する。また、反応生成物の吸着過程を調べ、ナノチャネル表面の触媒機能を評価する。さらに、キラルな分子をゲスト分子や内部表面の修飾ユニットに用いることにより、不斉分子認識、不斉反応、一方向物質移動への展開を図る。 (2) 溶媒の種類や組成を変えることによって形成する複数種の中空錯体に捕捉されるゲスト分子の探索を行い、有用な分子の精製分離、貯蔵、変換等へ展開する。 (3) これまでは、Pd(II)錯体を用いて研究を行ってきたが、Ni(II)、Cu(II)、Pt(II)等を用いた錯体合成を試みる。特に、置換活性の高い金属錯体については、内部表面に露出した金属中心の反応性を詳細に検討し、新たな分子認識部位と反応中心の付与の可能性について検討する。 以上の推進方策により、分子内空間・空隙の化学の飛躍的発展を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、使用額1,022,105円の約8割を物品費(有機合成要試薬、金属試薬、NMR・X線構造等解析用試薬および器具、寒剤等)、約1割を旅費(研究成果発表)、約1割をその他の経費(論文別刷代等)に使用する計画である。本使用計画は、有機合成、金属錯体合成、ゲスト分子吸着実験、単結晶および粉末構造解析、研究成果発表という研究計画に沿うもので妥当である。
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