2012 Fiscal Year Research-status Report
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23655118
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田代 省平 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80420230)
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Keywords | ペプチド / 金属錯体 / フォルダマー / 超分子 / オキシム / 二次構造 / 構造変換 |
Research Abstract |
生体オリゴマーであるペプチド構造の化学修飾により新たな機能・物性を示す機能性ペプチド様オリゴマー分子を人工設計することを目的として、金属イオンへの多点配位結合を駆動力として二次構造を形成する人工ペプチド「メタロペプチドフォルダマー」を創成することを目指した。金属イオンの種類や酸化数、外部環境に応じて多様な配位構造を示す金属配位結合をフォールディングの駆動力として用いることにより、従来の水素結合型ペプチドよりも多彩な二次構造ライブラリーを構築できることが期待される。加えて、金属配位構造の動的特性を活かして、外部環境・刺激に応じた高次構造の可逆変換が可能となる。さらに、得られた高次構造内に形成された金属アレイに基づく多核金属錯体としての機能発現も期待される。 申請者はこれまで、ペプチド主鎖に配位性オキシム基を導入したジペプチド、テトラペプチドを合成してその錯体形成を検討することにより、例えばテトラペプチドとパラジウムイオンの反応から二核錯体型二重ヘアピン構造が得られることを単結晶X線解析およびNMR測定より明らかにした。そこで当該年度は、得られたメタロペプチドフォルダマーの可逆構造変換システムを創製することを目指して種々の実験を進めた。具体的には、単核らせん錯体および二核ヘアピン錯体に対して塩基を添加することにより、分子内配位子交換反応を経て異なる高次構造へと定量的に構造変換することを見出した。また変換後の錯体に酸を加えたところ、元の錯体が再形成されたことから、メタロペプチドフォルダマーが酸、塩基の添加によって可逆的かつ定量的に高次構造変換することを明らかにした。一方、同種のみならず異種金属イオンから構成されるメタロペプチドフォルダマーの構築を検討したところ、ロジウムとパラジウムイオンから成る異種二核錯体型フォルダマーが選択的に得られることも見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、(1) 種々のペプチド様高次構造をもつメタロペプチドフォルダマーの構築、(2) 外部刺激・環境に応答する高次構造変換システムの開発、(3) 得られたメタロペプチドフォルダマーの機能化の3点を主な目的として研究を進めてきた。この中で、(1)および(2)に関しては研究実績概要で記載した通りおおむね目標を達成することができた。特に(1)に関しては、異種二核錯体型フォルダマーを選択的に合成できたことから、目標を十分達成できたと言える。(3)に関しては、機能化の基盤となりえる様々な単核・二核錯体型ペプチドフォルダマーを構築できた一方で、これらを用いたさらなる機能発現についてはこれからの検討課題である。今後は、得られた金属錯体もしくは機能発現を指向してデザインした種々の金属錯体型フォルダマーを用いることにより、触媒能や磁性、酸化還元特性、生体分子認識能などの機能化を図ることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策の一つとして、現在までの達成度で記載した通り、得られた金属錯体を用いた種々の機能化を目指す。例えば、パラジウム錯体に関しては特徴的な触媒能や酸化還元特性を示す可能性があるため、これらの観点からパラジウム単核・二核錯体に関して機能発現を検討していく。また、ペプチド鎖に不斉中心を導入したり、光学活性な対アニオンを用いることによって光学活性ならせん錯体を構築できれば、不斉触媒や不斉分子認識などへの機能化へ展開できると考えられる。さらに、ロジウム-パラジウムからなる異種二核錯体では、それぞれの金属イオンを協同的に用いることにより、従来の人工分子では達成できないような優れた分子機能を有する機能性金属錯体を構築できる可能性がある。 触媒能だけでなく、磁性や光特性などの特徴的な物性を発現するメタロペプチドフォルダマーを構築することも目指す。例えば適切な配位子場をもつニッケル錯体は、温度変化に応じてスピン状態を変換できることから、ニッケル錯体型メタロペプチドフォルダマーを構築することにより、高次構造変換とスピン転移が相関した機能性金属錯体の創製を試みる。また、白金錯体では白金-白金間相互作用に基づく特徴的な発光挙動などが期待されるため、二核白金錯体型フォルダマーを構築することができれば、高次構造変換に応じて発光のON/OFFを制御できる発光性材料を創製できると考えられる。 さらに、鎖状オキシムペプチドだけでなく環状オキシムペプチドが効率よく合成できることを明らかにしたので、環状ペプチドと種々の金属イオンを組み合わせることで、環状配位子場によって金属イオンの特異な性質・物性が誘起される環状ペプチド金属錯体を合成して、特徴的な金属錯体機能を引き出すことを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に様々なメタロペプチドフォルダマーを合成し、それらの構造と性質を明らかにした上で研究成果を取りまとめる予定であったが、鎖状ペプチドだけでなく環状ペプチドが効率よく得られるという新たな知見が得られたため、計画を変更して、従来の鎖状ペプチドを用いた金属錯体の形成とそれらの機能化に加え、環状ペプチド錯体の形成と構造解析および機能化も行うこととした。このため、研究のとりまとめを次年度に行うこととし、未使用額は構造・機能解析のための有機試薬、金属試薬、分析試薬および器具材料費、取りまとめた研究成果発表や共同研究打合せのための旅費や、学会参加費および印刷雑費などに使用する。
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