2011 Fiscal Year Research-status Report
ナノイオン液体を基盤とする超高感度分析システムの開発
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23655130
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森川 全章 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10363384)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イオン液体 / 高比表面積 / ナノワイヤーアレイ構造 / 表面ナノ空間 / 超高感度分析 |
Research Abstract |
本研究は,様々な基板上に酸化亜鉛やシリコンナノワイヤーアレイ構造を構築し,その表面ナノ空間にナノリットルのイオン液体を保持するための新しい技術を開発する.このイオン液体を保持した微細加工基板を用いて,水溶液中の微量検体をイオン液体中に濃縮し,超高感度で検出できる新しい分析システムを開発することを目的とする.本年度は,当初の研究計画に基づいて,(1)酸化亜鉛またはシリコンナノワイヤーアレイ構造の構築と(2)ナノワイヤー表面の親/疎水性の制御,ならびに(3)イオン液体の保持特性について検討した.酸化亜鉛ナノワイヤーアレイ構造は,基板上への種結晶の固定化と水熱反応による成長プロセスにより構築した.様々な方法によって種結晶の固定化を試み,また成長液に1,3-ジアミノプロパンを加えることによって,アスペクト比の異なるナノワイヤーアレイ構造を,大面積(2×2 cm 程度)かつ均一に作製することに成功した.また,既報に従って金属誘起エッチング法によりシリコンナノワイヤーアレイ構造を作製した.この表面は,シランカップリング剤によって疎水化できることがわかった. つぎに,親水的および疎水的な表面を有するシリコンナノワイヤーアレイ構造の表面ナノ空間へのイオン液体の閉じ込めについて検討した.代表的な疎水性イオン液体として,1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(bmimTFSA)を用いた.親水的および疎水的な表面を有する基板上にbmimTFSAをスピンコートしたところ,いずれの場合も非常に薄い液膜が基板上に保持されることが分かった.一方,フラットな基板を用いて同様の実験を行ったところ,基板上にイオン液体は全く保持されなかった.このことから,基板表面のナノ空間がイオン液体の保持に重要であることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,本年度内に様々な基板上における高比表面積ナノワイヤーアレイ構造を構築し,表面ナノ空間へのイオン液体の閉じ込め技術を開発する予定であった.実際には,シリコンやガラス基板上に酸化亜鉛ナノワイヤーアレイ構造を均一かつ大面積に構築する手法を確立した.また,既報に従ってシリコンナノワイヤーアレイ構造を構築し,その表面の親/疎水性を制御できることを明らかにした.さらに,基板表面のナノ空間がイオン液体の保持に重要であることを明らかにした.基板上に保持できるイオン液体の量を制御し,またその保持量を定量的に評価する必要があるが,おおむね順調に研究が進んでいるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた成果を基にして,(1)まず基板上におけるイオン液体の保持量を制御する.イオン液体をメタノール等の揮発性溶媒により希釈し,基板上にスピンコートした後,真空乾燥する.メタノール中におけるイオン液体の濃度を予め調節することによって,基板上に保持されるイオン液体の体積を制御できるものと考えられる.つぎに,(2)イオン液体の保持量を定量的に評価する.基板上に保持されたイオン液体をメタノールなどの良溶媒に溶解させ,紫外吸収スペクトルの測定を行う.イミダゾリウム基の吸光度から,イオン液体の保持量を定量的に評価できるものと考えられる.その後,(3)ナノイオン液体を保持した基板をサンプル水溶液と接触させ,水中の標的分子をイオン液体中へ濃縮抽出する.はじめに,予備的な知見を得るために,ローダミンB等の蛍光色素を標的モデル分子として用い,蛍光顕微鏡観察により濃縮特性を評価する.このとき,ナノワイヤーアレイの表面が親水性かあるいは疎水性かによって,大きく結果が異なるものと予測される.疎水処理を施した基板を用いた場合,サンプル水溶液と接触させても水とナノイオン液体は巨視的に相分離した状態を維持するものと考えられる.一方,親水的な基板ではナノワイヤー表面は疎水的なイオン液体よりも水分子との親和性が高いため,表面ナノ空間からイオン液体が追い出され,基板表面においてイオン液体がミクロ相分離を起こすものと考えられる.このとき,サンプル水溶液に界面活性剤を加えておけば,イオン液体の液滴が安定化され,結果的にイオン液体のマイクロ液滴アレイが基板上に形成されるものと考えられる.これにより,液―液界面の表面積が飛躍的に増大し,抽出効率が大きく向上するものと期待される.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は,イオン液体の合成試薬や溶媒,ガラス・プラスチック製器具,シリコンウェハやガラスなどの基板を購入するために使用する.また,研究成果の発表や情報収集のために,国内外の学会に参加するための旅費として使用する.さらに,得られた研究成果を国際誌に投稿するとともに,その別刷り印刷費として使用する.
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