2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノイオン液体を基盤とする超高感度分析システムの開発
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23655130
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森川 全章 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10363384)
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Keywords | イオン液体 / 高比表面積 / ナノワイヤーアレイ構造 / 表面ナノ空間 / 超高感度分析 |
Research Abstract |
本研究は,様々な基板上に酸化亜鉛やシリコンのナノワイヤーアレイ構造を構築し,その表面ナノ空間にイオン液体を保持するための新しい技術を開発する.この基板を用いて水溶液中の微量検体をイオン液体中に濃縮し,超高感度で検出できる新しい分析システムの開発を目的とする.前年度までに,シリコンナノワイヤーアレイ構造を作製し,疎水性イオン液体(bmimTFSA)が基板表面のナノ空間に保持されることを明らかにした.本年度は,ナノリットルのイオン液体が保持された基板とサンプル水溶液を接触させ,水中の標的分子がイオン液体中に濃縮抽出される様子を蛍光顕微鏡により観察した.はじめに,bmimTFSAのメタノール溶液を親水性シリコンナノワイヤーアレイ基板上にスピンコートした.つぎに,スライドガラス上に牛血清アルブミン(BSA)水溶液を 20 μl 滴下し,イオン液体を保持した基板と接触させた.その結果,基板表面においてイオン液体のマイクロ液滴アレイが観察された.これは基板表面のナノ空間から疎水性イオン液体が追い出されると同時に,BSAがイオン液体/水界面に吸着し,安定なイオン液体のマイクロ液滴が形成されたためと考えられる.つぎに,モデル分子としてローダミンBを用い,イオン液体への濃縮抽出について検討した.スライドガラス上にBSA を含むローダミンBの水溶液(100 nM, 20 μl)を滴下し,イオン液体を保持した基板と接触させた.その結果,ローダミンBの蛍光がイオン液体相から確認された.興味深いことに,ローダミンBの水溶液(100 nM)は目視にて蛍光を確認することはできないが,基板表面のイオン液体へ抽出された後では目視でも容易に蛍光を確認することができた.すなわち,水中の微量検体であってもイオン液体を保持した基板と接触させるだけで超高感度に検出できる新しい分析手法を開発することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,本年度からナノリットルのイオン液体を保持した微細加工基板を用いて,超微量・超高感度分析システムの開発に着手する予定であった.実際には,モデル実験としてイオン液体を保持したシリコンナノワイヤーアレイ基板とローダミンBの水溶液を接触させると,ローダミンBが水相からイオン液体相へ抽出されることを確認した.またこのとき,ローダミンBがイオン液体相へ濃縮されることから,検出感度が大幅に向上することが確認された.このように,当初の計画に沿っておおむね順調に研究が進んでいるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた成果を基にして次の研究課題を遂行する.①酸化亜鉛のナノワイヤーアレイ構造を作製した基板を用いて,イオン液体が表面ナノ空間に保持されるのか検討する.また,酸化亜鉛ナノワイヤーの密度やアスペクト比とイオン液体の保持量との相関について定量的に評価する.また,これらの基板を用いて,水中のローダミン色素が濃縮抽出されることを確認する.つぎに,②ナノワイヤー表面の親水性・疎水性をシランカップリング剤との反応によりコントロールし,サンプル水溶液と接触させたときに基板表面においてイオン液体がどのような相分離挙動を示すのか,光学・蛍光顕微鏡により明らかにする.その後,③水中の生理活性アミン類の超高感度検出を試みる.例えば,イオン液体中にo-フタルアルデヒドとチオール化合物を溶解させておけば,ノルアドレナリンのような生理活性アミンがナノイオン液体へ抽出されると,即座に化学反応して発光性のイソインドール誘導体を与えるものと考えられる.1000 倍以上の濃縮効果に加えて,発光による高感度分析が可能になれば,10-9 M 以下の生理活性アミンも容易に検出できると期待される.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は,イオン液体の合成試薬や溶媒,蛍光色素や生理活性アミン類などの生体分子,ガラス・プラスチック製器具,シリコンウェハやガラスなどの基板を購入するために使用する.また,研究成果の発表や情報収集のために,国内外の学会に参加するための旅費として使用する.さらに,得られた研究成果を国際誌に投稿するとともに,その別刷り印刷費として使用する.
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