2011 Fiscal Year Research-status Report
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23655134
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
塩見 大輔 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40260799)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 分子素子 / スピンラベル / ラジカル / DNA / ESR |
Research Abstract |
論理回路の基礎要素として,AND, OR, XORなどの論理ゲートがある.シリコンベースの半導体にかわって,分子を使って論理ゲートを構築しようとする「分子演算」の試みが近年行われている.本研究では,電子スピンの量子性と核酸の塩基配列を同時に活用した超分子系を提案・設計した.DNAの塩基配列を使って,安定ラジカルを合理的に並べ,ラジカルスピン同士の交換結合による合成スピン量子数を演算の出力として用いる.電子スピンの量子性を分子演算に持ち込むことによって,「0か1か」の演算結果の判定基準から曖昧さを原理的に排除し,なおかつ実用的なレベルの論理回路モデルを構築することを目標とする.初年度は,電子スピンを包含した分子演算システムの開発を進めるための基盤技術として,核酸塩基の相補的水素結合を利用した分子配列の制御・磁気機能の発現について基礎的知見を得ることを目標にし,溶液中での開殻分子の構造・会合様式と磁気的性質を明らかにすることをめざした.特定の塩基配列を認識して特異的に結合するリガンド分子に,ニトロニルニトロキシドラジカルやTEMPOラジカルなどの安定ラジカルを導入したスピンラベル分子を合成し,種々の分光測定,パルス化電子スピン共鳴(多重共鳴法を含む)等によって,DNA中でのラジカル置換基の配列構造を明らかにした.また,DNAの二重らせん構造に着目して,スピンの自由度とらせんキラリティを共存させたキラルスピン系での分子演算の可能性について初めて提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子集合体系でラジカル分子の配列を精密制御するための新しい方策として,ミスマッチ塩基配列を特異的に分子認識するリガンド(結合分子)を介してDNAナノ構造にスピンを導入することを検討した.グアニン-グアニン(G-G)ミスマッチに結合する分子(naphthyridine carbamate dimer; NCD)にニトロニルニトロキシドラジカルを共有結合で導入した分子NCD-NNおよび,アデニン-アデニンミスマッチに結合する分子(naphthyridine-azaquinolone; NA)にTEMPOラジカルを導入した分子NA-TEMPOをそれぞれ合成した.NCD-NNとNA-TEMPOが結合することによって初めて一次元長鎖DNAを形成することを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動とESRスペクトルの測定・シミュレーションから確認した.それぞれのリガンドの結合特異性ならびに結合直交性は,円二色性スペクトルの測定により明らかにした.さらに,DNA中でのラジカル置換基の位置関係を精密に調べるために,電子-電子多重共鳴法により,スピン-スピン双極子相互作用定数を測定した.この結果から求めたスピン間距離は,分子動力学法によって算出した計算値とよい一致を示した.DNAの二重らせん構造を利用して,多数のスピンをらせん状に配置することで,上記の結果は,異種・複数種の分子スピンをDNA構造を利用して設計通りに配列させることが可能であり, DNAの塩基配列による分子演算システムの基盤となる方法論が確立したことを意味する.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では,2年めには,交換結合させるラジカルを2分子から3分子以上に拡張すること,1つの分子内に2つの不対電子を持つビラジカル系を導入すること等を計画していた.今年度(1年め)の成果のうち,円二色性スペクトルの測定等から,DNA二重らせんのキラリティを積極的に活用した分子演算系も十分に構築が可能であることが示唆された.そこで2年めには,DNA・分子スピン集合系のキラリティを直接的に調べる測定系を新たに開発することにする.通常の磁気測定系(SQUID磁束計)に円偏光マイクロ波を導入するシステムを新たに組み上げ,低温・磁場中で,巨視的な縦磁化をモニターすることによる,円偏光の輻射場による磁気共鳴の測定を試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の円偏光磁気共鳴・磁化測定システムを構築する.システムに必要なマイクロ波回路部品を新たに購入・設置する.なお,使用するマイクロ波の波長(周波数)は,現有の磁気測定系(SQUID磁束計)のサイズとの適合性から,ある一定の範囲(V,EバンドからWバンド)に限定される.すでに一部のマイクロ波計測器と部品は,今年度(1年め)に購入済みであるが,今後の測定で必要となる部品のうち周波数逓倍器などについては,感度・マイクロ波パワー・帯域幅の条件を満たすものは,ただちに購入可能な量産品・汎用品としては入手できないことが分かった.これらは特注品としての製作を要するため,直接経費の一部を未使用額として残し,次年度にあらためて発注・購入することとした.当初の計画にあったスピンラベル系DNAの合成・開発は,上記の測定系の構築と並行して,予定どおりに進めることとし,必要な試薬・溶媒類を購入する.また,磁気測定に必要な液体ヘリウムも予定どおり購入する.
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] ESR and 1H-,19F-ENDOR/TRIPLE Study of Fluorinated Diphenylnitroxides as Synthetic Bus Spin-Qubit Radicals with Client Qubits in Solution2011
Author(s)
T. Yoshino, S. Nishida, K. Sato, S. Nakazawa, R. Rahimi, K. Toyota, D. Shiomi, Y. Morita, M. Kitagawa, T. Takui
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Journal Title
J. Phys. Chem. Lett.
Volume: 2
Pages: 449-453
DOI
Peer Reviewed
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