2011 Fiscal Year Research-status Report
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23655183
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小野寺 恒信 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10533466)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ドーピング / 高ドープド有機材料 / ポラリトン特性 / 微結晶 / 再沈法 |
Research Abstract |
本研究では、キャリア移動度の低下を抑えつつ有機材料にドーピングする手法を開発することで、ドープド有機微結晶をはじめとする光機能性有機材料のポラリトン特性を明らかにする。初年度は、ドープド有機微結晶のポラリトン特性の解明を目的に、特にCu-TCNQ微結晶を対象として、ドーピング濃度を一定に保ちつつ、結晶サイズを制御することを目指した。出発物質の濃度(比)や還元剤、反応温度などの作製条件を系統的に調査し、微結晶の生成過程を詳細に考察した結果、微結晶の生成はCuの還元反応(2価Cuカチオン→1価Cuカチオン)をトリガーとする、難溶性Cu-TCNQの急激な沈殿生成を原理としており、出発物質の濃度比や反応速度を変化させることで、CuとTCNQの組成比が異なる沈殿生成過程を経ることが判明した。制御因子を最適化した結果、バルク結晶では組成比がCu:TCNQ= 1:1であるところを1.3:1(元素分析値)に変化させたまま、微結晶サイズを30-1000 nm程度の範囲で制御することに初めて成功した。得られた微結晶は、粉末法XRD測定からいずれも同一の分離積層型の結晶構造であることが判明し、得られた微結晶はまさにドープド微結晶であり、興味深い新物質である。続いて、スライドガラス上に微結晶吸着膜を作製し、液体ヘリウム温度から室温までの"吸収スペクトルにおける温度依存性"を測定した。ドープドCu-TCNQ微結晶にはバルク結晶に観測されない近赤外吸収ピークが観測されたが、液体ヘリウム温度においてもそのピークは消失することなく明瞭に観測され、電気測定から得たキャリア密度の大きさやラマンスペクトル・ESRスペクトル・SQUID測定・DTF(密度汎関数法)計算から判断すると、その由来がドルーデ吸収やドーピング準位からの電子励起とは異なり、価数の異なるTCNQ間の電子移動に由来すると推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の実施項目は、「還元再沈法によるCu-TCNQ微結晶の作製制御」と「ドープドCu-TCNQ微結晶のポラリトン特性評価」であった。微結晶の作製制御については、還元剤の強さと反応温度を因子として、酸化還元反応速度・結晶成長速度を制御することで、当初目的とした「結晶サイズとドーピング濃度の独立制御」を達成した。これは、ポラリトン特性に対する微結晶のサイズ効果とドーピング効果を独立に評価するために極めて重要な成果と位置づけられる。得られた微結晶は、走査型電子顕微鏡観察・動的光散乱測定・元素分析でサイズと組成比を評価できた。次に、微結晶のポラリトン特性評価について、当初の予定通り、液体ヘリウム温度から室温までの"吸収スペクトルにおける温度依存性"を測定したものの、得られた結果は想定を覆すものであったことから、電気測定(伝導度測定、キャリア密度評価)、赤外吸収・ラマンスペクトル、ESRスペクトル、SQUID測定、DTF(密度汎関数法)計算を行い、改めてその起源について調査した。その結果、微結晶に特有の近赤外吸収ピークは組成比Cu:TCNQが異なったことで、電導経路となるTCNQカラムへの過剰な電子注入により、バルク結晶には存在しないTCNQジアニオンが発生し、価数の異なるTCNQ間の電子移動に由来することを初めて推定した。本作製手法は「TCNQカラムへの過剰な電子注入」という意味でも、二重のドーピング効果と捉えることができる。得られた結果は当初の想定とは異なるが、新物質であるドープド微結晶の作製制御に初めて成功し、光学特性の起源を推定することができた。その内部構造や電気特性に関して、更なる興味や謎が生じており、次年度への新たな展開や成果も十分に期待できることから、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続きドープド有機材料創成のための作製技術の改良・メカニズム解明を行う。加えて、以下の項目を検討する。1)ドープドCu-TCNQ微結晶のポラリトン特性評価2:初年度の研究成果を踏まえて、ドープドCu-TCNQ微結晶のポラリトン特性・電気特性におけるサイズ効果と内部構造との関係を明らかにする。特に、電荷移動錯体はドナーとアクセプターの組成比および電荷移動量を制御することが電気・磁気特性の制御に重要である。これまでに作製されたことのない組成比、加えて微結晶であると言う意味で、新たな物性が期待される。2)高配向π共役高分子のドーピング:還元再沈法を用いて、Regioregularポリチオフェンなどの高配向π共役高分子のドーピングを検討する。作製したドープド有機材料について、内部構造解析(SEM、TEM、FT-IR分光、Raman分光、粉末法XRD、元素分析、XPS)を行う。さらに、その電気特性や線形光学特性を評価する。得られたドープド有機材料における内部構造評価・電気特性評価の結果をあわせて、総合的にポラリトン特性・ポーラロン特性と構造・組成との相関を評価する。 以上のように、急激な非平衡過程を用いることで、キャリア移動度の低下を抑えつつ高ドープド有機材料を創成し、そのポラリトン特性を明らかにすることで、光をエネルギー源・駆動力とした様々な材料科学の研究開発に貢献する材料創製・基礎物性評価を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額と合わせて、上記のように次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)