2011 Fiscal Year Research-status Report
脳型記憶素子への展開をめざした階層構造型スーパースピングラスの創製
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23655198
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 勝久 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80188292)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | スーパースピングラス / 磁性体 / 酸化物 / 階層構造 / 記録材料 / アモルファス / 超微粒子 / 薄膜 |
Research Abstract |
スピングラスと脳の連想記憶との類似性が指摘され、ニューラルネットワークへの展開が成功を収めているが、スピングラス相の示す独特の磁性を脳型記憶素子へ応用する研究は進んでいない。本研究ではスーパースピングラスに着目し、磁性イオンクラスターを含む超微粒子の集合状態のように階層構造を有する酸化物スーパースピングラスを合成して、各階層構造に基づく異なる時間スケールでのスピンダイナミクスを実現し、時間多重の脳型メモリーに展開することを目的としている。階層構造を持つスーパースピングラスの多段階磁気転移と時間多重記録の提案は独創的であり、脳を模倣した新しい型のメモリー材料を開発するという観点からインパクトは大きい。本研究では、このような磁気的クラスター/超微粒子といった階層構造を持つ酸化物磁性体を合成し、時間多重スーパースピングラスを実現する。特に、非線形磁化率とスピンダイナミクスに関する測定から得られるデータの解析、磁性と結晶構造や微視的形状との関係の解明により、階層構造を有するスーパースピングラス相を得るための材料設計指針を確立する。本年度は、高濃度の鉄イオンと希土類イオンを含み構造中に磁気クラスターが形成していると考えられる酸化物ガラスを作製し、その磁気的性質を調べた。交流磁化率測定やエージング・メモリー効果の観察から、これらのガラスがスピングラス転移を示すことを明らかにし、希土類イオンによる分子場の下で鉄イオンが反強磁性的に相互作用するというモデルで現象を説明した。さらに、アモルファスEuZrO3薄膜がリエントラントスピングラス転移を伴う強磁性となることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アモルファスEuZrO3薄膜が温度の低下とともに強磁性転移を示したあとリエントラントスピングラス相に転移することは、研究代表者らが先に明らかにしたアモルファスEuTiO3薄膜の磁気的性質(強磁性転移とリエントラントスピングラス転移を示す)から容易に類推できるものではあるが、リエントラントスピングラス転移を示すアモルファス酸化物の系を拡張したという意味では意義がある。また、鉄イオンと希土類イオンを高濃度で含む酸化物ガラスにおいてスピングラスに特徴的なエージング・メモリー効果を確認するとともに、磁気的相互作用が弱いと考えられている希土類イオンも、鉄イオンの相互作用を助けるという観点で磁気転移に十分に寄与していることを明らかにした。これは新しい知見である。さらに、メソポーラス構造やコア-シェル構造など階層構造を持つ微粒子を作製してスーパースピングラスを実現する研究では、これらの構造を構築するための合成条件の調査など予備的な段階はすでにクリアしている。
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Strategy for Future Research Activity |
階層構造を持つスーパースピングラスの合成と磁性の評価に関する研究を推進する。特に液相法に注目し、ミストCVD法を用いた薄膜の合成と、溶液からのボトムアッププロセスを利用したメゾ構造あるいはコア-シェル構造を有する複合体の合成を実行する。コア-シェル構造のスーパースピングラスは当初の研究計画には含めていなかったが、研究代表者らは最近、金属ナノ粒子をコア、シリカ薄膜をシェルとする複合ナノ粒子と蛍光分子との組み合わせによりランダムレーザー発振に成功するとともに発振条件の最適化も実現しており、表面プラズモンによる発光の増幅に基づく超小型レーザーの開発に向けた大きな成果を得ているため、この手法を本研究にも活かす。ミストCVDでは、従来のCVDとは異なり真空系を必要とせず、比較的簡便に薄膜生成が行える。この手法を用いると合成条件の制御により薄膜の微視的構造を様々なものに変えることができるため、薄膜の微視的形状に基づいた階層構造を持つスーパースピングラスの創製に適した方法であると言える。一方、金属の塩やアルコキシドを出発物質として用い、溶液中での化学反応によりボトムアップ手法で酸化物固体を合成する方法は、様々な形状を持つ超微粒子やその集合体を生成する上で優れている。ここでは、最初に界面活性剤を利用してメゾ孔を有する酸化物磁性体超微粒子を作製し、続いてメゾ孔に金属磁性体の超微粒子を導入して、階層構造を持つ酸化物/金属磁性体複合材料を合成する。また、上述のとおりコア-シェル構造にも重きを置く。さらに、超微粒子からフォトニックグラスを作製する方法に倣い、反応に用いた溶媒を除去してこの磁性複合体超微粒子を凝集させ、超微粒子のランダム集合体としてのスーパースピングラスを作製する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は前半では試料の合成も進めながら、主として磁気的性質の測定を行う。薄膜試料の合成では、320 K付近でスーパースピングラス転移を示す不規則亜鉛フェライトを中心に実験を進める。また、溶液反応を利用したメソポーラス構造を持つ微粒子あるいはコア-シェル構造を持つ微粒子を作製し、階層構造を持つスーパースピングラスを実現する。磁性については、一般的な直流磁化の磁場依存性や温度依存性の測定のみならず、スーパースピングラス相の存在を実証するために、磁気転移温度近傍での臨界緩和(critical slowing down)、エージング・メモリー効果、温度カオス効果などスピンダイナミクスに関連した実験、および磁気転移温度付近での非線形磁化率の測定とそのスケーリング解析に力点を置く。スーパースピングラス的挙動が見られた試料に対しては、高分解能電子顕微鏡観察により微視的形状や原子レベルでの構造を明らかにし、スーパースピングラスの起源を階層構造に基づいて考察する。平成24年度の経費は、これら合成、物性測定、構造解析に必要な消耗品(無機試薬や冷却用液体ヘリウムなど)に主に充てるほか、国際会議などで成果の公表を行うための旅費として使用する。
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Research Products
(3 results)