2012 Fiscal Year Research-status Report
新しいアクセプター型黒鉛層間化合物の合成とその超伝導特性
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23655203
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
豊田 昌宏 大分大学, 工学部, 教授 (00290742)
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Keywords | 黒鉛層間化合物 / アクセプタータイプ / 硫黄 / XAFS分析 / カルシウム |
Research Abstract |
黒鉛層間化合物(GIC)は,層間に挿入されたインターカレートとホスト黒鉛との間に電荷移動を伴い,ドナー型,アクセプター型,共有結合型に分けることができ,電気的,光学的及び磁気的に著しい変化をもたらし,黒鉛とは異なる新しい性質をもつ化合物の合成が可能となる.近年,溶融したリチウム-カルシウム合金に黒鉛材料を浸漬することで,バルク黒鉛へカルシウムがインターカレートすることが報告され(Ca-GIC),これまで合成されてきた他のアルカリ金属-GICと比較して高い超伝導転移温度を示すことで注目を集めた.しかしながら,さらなる高温超伝導体の合成とその超伝導メカニズムの解明が必要とされている.本申請研究では,インターカレートに硫黄を用い,報告例のないアクセプター型の黒鉛層間化合物の合成を試みた.アクセプター型の硫黄が,S2-イオンの状態で黒鉛層間に挿入されれば,電子をキャリアーとするドナー型と比べ,ホールをキャリアとすることにより,更なる高温超電導体となる可能性と,超伝導メカニズムの解明につながると期待される. これまでの研究結果より,アクセプターとなる硫黄をインターカレートとする層間化合物の形成は,two-bulb法により単独で挿入することは非常に困難であることが明らかとなっている.硫黄の錯体として挿入することは,可能であっても,硫黄単独での挿入には繋がっていない.現在,two-bulb法ではなく,硫黄の溶融等による手法を用いて,さらに検討を進めている.しかしながら,一方で,カルシウムをインターカレートとした場合でのXAFSを用いての電子状態の解析から層間に挿入されたカルシウムイオンの電子状態は,通常のカルシウムイオン(Ca2+)としての電子状態ではなく,どちらかと云えば,金属に近い電子状態を示していることを明らかとした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
黒鉛層間への硫黄のインターカレーション反応は,硫黄イオン単体で挿入することは非常に困難であり,錯体として挿入するすることができても,それから硫黄単独で層間に残すことも難しい.従って,硫黄のインターカレーションと云う意味からは,進捗状況は50%程度になってしまう,一方で,形成された層間化合物での電子状態の解明も目的の一つであったことから,黒鉛層間に挿入されたイオンの電子状態をXAFSを用いて解析できることは,新しい知見と云ってよい.その結果,層間に挿入されたカルシウムイオンの電子状態は,通常のカルシウムイオン(Ca2+)としての電子状態ではなく,どちらかと云えば,金属に近い電子状態を示していることが明らかとなったことは,これまで,アルカリ金属を黒鉛層間に挿入させ,超伝導現象がえられた場合の電子状態の解明に繋がると考えられ,超伝導現象機構の解明が期待される.そういった意味で,これまでにない新しい知見が得られたことから,おおむね順調に進行していると記した.
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Strategy for Future Research Activity |
アクセプターである硫黄イオンの黒鉛層間への挿入は,two-bulb法からではなく,硫黄を溶融させ,そこへの浸漬による方法等に合成手段を変更し,継続して研究を進める.一方で,層間に挿入されたイオンの電子状態については,超伝導現象を解明する新たな知見となっており,高エネ研の放射光XAFS及びXANESを使用することにより,サンプル数を増やし,精度良く解析ができるよう研究を進める.これらを基にして,超伝導現象解明のため,継続して検討を進めてゆく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
高エネ研で,放射光装置を利用することから,往復旅費,滞在費に使用する,また,ホスト黒鉛材料として,高配向性熱分解黒鉛(HOPG)を購入して使用する.その他消耗品として,硫黄溶融用のるつぼ,マントルヒーター温度調節器に消耗品として使用する予定である.
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