2011 Fiscal Year Research-status Report
気相堆積法による平坦化酸化物表面を利用したLiイオン電池固体電解質界面のナノ解析
Project/Area Number |
23656030
|
Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
笹原 亮 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (40321905)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 固体電解質界面 / リチウム / 二酸化チタン / 走査トンネル顕微鏡 / 周波数変調原子間力顕微鏡 / リチウムイオン電池 |
Research Abstract |
本研究は、リチウムイオン電池の陽極のモデル表面を解析し、電極表面ナノ構造が固体電解質界面(SEI)の局所構造(濃度、厚さ)に与える影響を解明することを目標とする。SEIは、電解質の分解生成物とLiで電極表面に構成される、厚さ数nmの層である。電解質や電極の分解を抑制する正の効果と付加逆容量を増加させる負の効果を併せ持つSEIの最適化が、リチウムイオン電池の長寿命化、高容量化の鍵となる。平成23年度は、二酸化チタン(TiO2)(110)表面におけるLi原子の吸着状態を解析した。TiO2はリチウムイオン電池の陽極材料であるマンガン酸化物と同様にイオン性が強い酸化物であり、表面局所構造(ステップ、原子欠陥)では正負イオン比が不均一になり、電荷分布が局所的に変動する。正イオンとして吸着するLi原子の分布は局所構造の影響を受けると予想され、その吸着状態の解析はSEIの形成プロセスの初期段階の解明に繋がる。TiO2(110)表面にLi原子を蒸着し、超高真空中で走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察した。Li原子はin-plane酸素原子のfourfold hollow site、in-plan酸素原子とブリッジ酸素原子から成るthreefold hollow site、ブリッジ酸素欠陥の3種類のサイトに吸着し、室温で拡散した。また、ステップ端では吸着Li原子の密度が低下することを見出した。Li原子は負電荷密度が高い酸素原子欠陥やステップ端では基板に電子を与えることができず、安定に吸着しないと考えられる。得られた結果は、酸化物電極表面ステップや欠陥の密度を利用した、Liの吸着を制御できる可能性を示している。次年度はLi原子と炭酸プロピレンの反応活性サイトの特定、マンガン酸化物表面の電解質溶液中解析に着手する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には、Li原子の分布が二酸化チタン表面の電荷分布を反映することを明らかにした。イオン性金属酸化物表面の局所構造における分布の不均一性は、NaやKなど他のアルカリ金属原子や遷移金属原子では報告されておらず、Li原子に特有の性質であると考えられる。この結果は、Li原子の吸着を酸化物電極表面のステップや欠陥の密度を利用して制御できる可能性を示している。本研究は、「電極表面と固体電解質界面(SEI)のナノ構造制御がリチウムイオン電池の高性能化に繋がる」、という発想に基づいている。この発想の実現に繋がる成果を得た意義は大きく、研究は順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、1)イオン性酸化物表面におけるLi原子と炭酸プロピレンの反応活性サイトの特定、2)リチウムイオン電池電極モデル表面の作製、3)電池動作環境下での固体電解質界面(SEI)の電解質溶液中解析、を進め、電極表面ナノ構造がSEIの局所構造(濃度、厚さ)に与える影響を解明する。1) 超高真空中でLi蒸着TiO2(110)表面に炭酸プロピレンガスを導入する。Li原子と炭酸プロピレンの化合物の生成が進行する反応活性サイトを走査トンネル顕微鏡観察により特定し、酸化物表面ナノ構造を利用した反応活性サイトの密度・分布制御が可能であることを実証する。2) 気相堆積法を用いてβ-MnO2単結晶薄膜をTiO2(110)表面に作製する。β-MnO2とTiO2の格子のミスマッチは4%であり、エピタキシャル成長が予想される。走査トンネル顕微鏡を用いてβ-MnO2単結晶薄膜表面の原子レベル構造を解析し、Li原子と炭酸プロピレンの反応活性サイトを特定する。3) β-MnO2薄膜を陽極、HOPGを陰極、LiPF6の炭酸プロピレン溶液を電解質溶液として、リチウムイオン電池を作製する。電池の充放電に伴う電極表面構造の変化を、周波数変調原子間力顕微鏡を用いて電解質溶液中で観察する。次に、電池動作環境下でのSEIの局所厚さ・濃度を探針に働く力学的相互作用(ファンデルワールス力、静電気力)として解析し、SEIの局所構造(濃度、厚さ)に与える影響を解明する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費は、消耗品の購入、論文投稿経費、旅費に充当する。主な消耗品の1つは、周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)用のSi製カンチレバーである。FM-AFMを用いたナノ分解能解析を実現するためには、カンチレバーの探針の先端は清浄で鋭利でなければならない。しかし、試料表面への意図しない衝突や酸化により鋭利な探針は容易に損なわれるため、カンチレバーの交換頻度は高く、消耗数は大きい。また、必要な試薬として、イオン性酸化物基板として利用するTiO2単結晶、β-MnO2薄膜の作製に用いる高純度MnO、炭酸プロピレンが挙げられる。これらに加え、超高真空装置やFM-AFMを維持するための真空・電気部品が消耗品に該当する。論文投稿経費は、掲載料及び英文校正料である。旅費は国内外学会での成果発表に必要な交通費、宿泊費である。
|
Research Products
(3 results)