2011 Fiscal Year Research-status Report
電磁スピニングシステムによるナノ流路駆動極小ポンプの開発
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23656057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 啓司 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00215584)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | マイクロマシン / マイクロ流路 / 電磁スピニング / 微小モータ / マイクロマニピュレーション / 粘性計測 / 粘弾性 |
Research Abstract |
申請者らはこれまで、電磁的な相互作用を用いて微小物体を遠隔で機械操作する要素技術の開発に取り組んできた。本研究は、極微小化が可能な遠隔力学操作方式である電磁スピニング(Electro-Magnetically Spinning、以下EMS)システムを用いて、マイクロ流路ひいてはナノ流路中において重要な機械構成部材となるマイクロポンプ、マイクロバルブ、コックといった要素部品を作り上げるための基盤技術を開発することを目的とする。 本研究の最も大きな特徴は、マイクロマシンの基本駆動原理として、これまでにないまったく新しいEMSシステムを採用する点にある。この方式は構成が非常に簡便であるのに加えて、遠隔からの駆動エネルギー供給が可能であるという際立った特徴を有しており、これゆえ微小化が容易に行なえるというマイクロ・ナノ化学リアクターへの応用上きわめて優れた利点を持つ。本研究で開発する流体駆動のための微小機械要素は、今後バイオエンジニアリングや医療応用など様々な分野への応用が可能であり、その実現のインパクトは大きい。本年度は微小球へのEMSシステムの適用研究を行った。これまでの技術では半径1mm程度の球に10-9Nm程度のトルクを印加することが限界であったが、これを磁場ならびにその回転数を増加させて100μm球までに適用した。駆動効率は磁場の大きさの2乗と磁場変動周波数に比例する。このため主に駆動トルクの向上は磁場生成周波数の高周波化により実現した。新たな磁気回路と電子回路の設計・製作と高周波電流アンプの導入、駆動電子回路の共振回路化により、従来の磁場の変調周波数50Hzを大幅に高周波化してkHz域まで拡張することに成功した。これにより低レイノルズ数駆動の確保や、機械摩擦の低減などの効果を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画された2項目の研究項目について、それぞれおおむね順調に進捗している。以下にその概要と、自己評価の理由を記す。1.極小回転磁場生成技術の開発:本研究項目ではまず、微小領域におけるEMS駆動を実現するための要素技術開発を行った。現在のマイクロ流路の多くはそのチャンネルが平面内に二次元的に構成されており、このため流路の任意の場所にはごく薄い被膜を通して局所磁場を印加することが可能である。このため研究では、被膜を介して駆動部材に局所的な時間変動磁場を印加することのできるマイクロ磁場生成端子を開発した。さらに微小球を回転させるための局所的かつ強度の大きい磁場の生成を目指した。当初の数値的な目標は、磁場の回転数にして200Hz程度を想定していたが、これを高周波電流アンプの導入と駆動電子回路の共振回路化によりkHz域までの高周波化を達成することができた。これは当初の目標を上回る成果であり、本研究の目的達成に向けての大きなブレイクスルーとなった。2.微小流体駆動回路の作製と駆動能力の実験的検証:さらに作製した高周波EMSシステムを用いて、微小球の流体中における運動について検証した。このような系では、レイノルズ数が低く周囲の媒質の運動が層流領域にとどまるという点で、その設計思想は通常サイズのポンプなどの流体駆動部材のものとは大きく異なる。すなわち時間反転性の保存や部材表面での流体の速度ベクトルの連続性といった要因を考慮する必要があるが、この条件は流体力学の数値計算の問題としてはむしろ解法を容易にする。これを検証するため、流体力学シミュレーション計算と、実験結果を比較し、両者のきわめて良好な一致をを確認した。以上の通り、本研究においては計画は順調に進行しているが、上記の駆動系などは既存の設備を改良して使用したため、当初の計画通りのアンプ等を導入すれば更なる性能の向上が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度については、高周波磁場の印加に必要な電気回路についてはまだその仕様が確定できなかったために、主に手作りの電気回路と既存の汎用型アンプなどの設備を用いてその最適条件を探索的に検討した。これにより既に計画当初の目的であった磁場の高周波化については達成できたのは望外の成果であったが、手作り回路という制約から現在のままでは任意波形の印加による多様な駆動形態への応用は困難である。このため次年度以降に使用することにした研究費によって速やかにこれらに対応可能な機器を導入して、複雑な駆動形態に対応可能な装置を作製する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記、推進の方策に沿って、磁場の駆動系に必要なアンプを購入して装置に組み込む。さらに流体シミュレーションがきわめて有効な設計指針を提供することが確認できたので、現有ソフトからさらに性能の向上したソフトにアップグレードを図るための費用としても支出する。その他はおおむね当初の計画通りの支出を予定している。
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Research Products
(3 results)